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荷を乗せた船が消え、おちやは連れ戻され…。遠野屋に危難が

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『野火、奔る』|あさのあつこ|光文社

野火、奔るあさのあつこさんの『乱鴉の空』の文庫解説の執筆を機に、「弥勒」シリーズを第1巻から読み直し、その面白さにすっかりはまりました。

最新刊の『野火、奔る(のび、はしる)』(光文社)が刊行されたので、紹介します。

本シリーズは、ニヒルな同心木暮信次郎と老練で人情家の岡っ引伊佐治が殺人事件を追うなかで、元刺客の大店商人遠野屋清之介と関わりながら、事件の謎を解いていく時代ミステリーです。
毎回、信次郎と清之介のヒリヒリするような緊張感あふれる対峙がクセになります。

小間物問屋『遠野屋』の主清之介は、生国嵯波の紅花産業に莫大な金を注ぎ込んできた。その紅餅を積んだ船が突然消えた。さらに奉公人のおちやにも騒動が起きる。亡きおちやの伯父に代わって大店『八代屋』を継いだ長太郎が、今頃になっておちやを無理矢理連れ戻そうとすることに、北定町廻り同心、木暮信次郎と岡っ引、伊佐治は不審に思う。『遠野屋』に降りかかる不穏な動き、清之介に纏わりつく、血の臭い、底なしの闇。ニヒルな同心、木暮信次郎、元刺客の商人、遠野屋清之介。尋常ならざる男と男がうねり合う、累計110万部突破「弥勒シリーズ」第12弾!

(『野火、奔る』Amazonの紹介より)

遠野屋の紅餅を積んだ船が期日を過ぎても湊に入ってこないという報せが回船問屋から届きました。紅餅は、紅花を加工し煎餅状に乾かしたもので、遠野屋の主力商品である「遠野紅」の原料です。

浦賀の番所での留め置きでもなく、難破や沈没でもない、不慮の出来事が起こり入湊が遅れているとしか考えられませんが、一体何が起こっているのか、清之介も筆頭番頭の信三も大いに困惑し、三駄の紅花荷が消え失せたらと考え、気が気ではありません。

同じ頃、遠野屋の奉公人おちやとおくみは、一緒に大川の向こうまで使いに出た帰りに、新大橋のたもとにある床見世で甘酒を飲もうとしたところ、八代屋の手代井平に声を掛けられました。
おちやは、通旅籠町にある江戸屈指の呉服屋八代屋の先代の姪で、一年近く前に伯父が亡くなった後に八代屋を出て、遠野屋の奉公人になっていました。
井平は、おちやの腕を掴み、八代屋に戻るように言い、遠野屋には手前どもからきちんと話を通すから、何の心配もいらないと。

「その手を放しなさい」
 思いっきり腕を惹く。びりっと嫌な音がした。」
「おまえに指図される謂れはありません。わたしはわたしの好きなようにします」
「お、おじょうさま」
 井平の眼の中に明らかな狼狽が浮かんだ。反撃されるなど思ってもいなかったのだ。
「帰って兄さんに、いえ、八代屋のご主人に伝えなさい。ちやは何があっても八代屋に戻りません。そんな気持ちは遠野屋さんに奉公するときに、きれいさっぱり捨てています。捨てることができています」

(『野火、奔る』 P.19より)

おちやは、おくみの手を握り直して駆けだしていきました。

自分の知っているおちやと大きく変わってしまい、別人のようになり、連れ戻すことができなかった井平。
その風景を定町廻り同心木暮信次郎と岡っ引伊佐治が見ていました。

「なあ、親分」
 信次郎がやけに柔らかな呼び方をした。
「八代屋がじたばたしている。それが、小娘を連れ戻すの、戻さないのって小さな枠内で収まると思うかい」
「……と言いやすと?」
 再び、信次郎を窺う。鼓動が僅かに速くなった、
「おちやの件はただの綻び。八代屋がついに見せちまった綻びに過ぎないんじゃねえのかな」

(『野火、奔る』 P.81より)

三駄の紅餅を積んだまま消えた船はどこへ消えたのでしょうか?
嵯波では一体何が起こっているのでしょうか
おちやを連れ戻そうとする新しい八代屋の主・太右衛門の狙いとは?

そんな中で、弥勒寺と武家屋敷の路地で男が殺されているという報せが入りました。
男は、三十前後の歳で引き締まった身体には、背中、脇腹、二の腕の三か所に刺し傷があり。そして背中からの一突きが命取りになったと思われました。
男から酒が匂いました。酔った上でのいざこざで殺されたのでしょうか?

商いの上で大きな危機に遭遇した遠野屋。
そしておちやの身にも危険が……。
全ての謎がつながったとき、清之介の敵の姿も明らかに。

信次郎の鬼眼のような推理と、元刺客が商人の型に嵌ろうともがく清之介の相克と商魂が描かれていき、ファンにはたまらないところです。
また遠野屋でともに成長していく、おちやとおくみの友情と葛藤が丹念に描かれていて、作品に甘酸っぱくも爽快さを与えています。

『野火、奔る』の題名に関連して、各章のタイトルも「火」にまつわるものが付けられています。
枯野を焼く野火の炎に似て、何もかも焼き尽くす炎を、消すことができるのでしょうか。

野火、奔る

あさのあつこ
光文社
2023年10月30日初版1刷発行

装幀:多田和博+岡田ひと實(フィールドワーク)
写真:Aflo+ハラカズエ

●目次
一 狐火
二 埋火
三 炎心
四 火照り
五 裸火
六 火片
七 業火
八 夜に揺れる

本文365ページ

初出誌:「小説宝石」2022年11月号~2023年8月号掲載作品を加筆修正

■Amazon.co.jp
『弥勒の月』(あさのあつこ・光文社文庫)(第1作)
『乱鴉の空』(あさのあつこ・光文社文庫)(第11作)
『野火、奔る』(あさのあつこ・光文社)(第12作)

あさのあつこ|時代小説ガイド
あさのあつこ|時代小説・作家 1954年、岡山県生まれ。青山学院大学を卒業後、小学校講師を経て作家デビュー。 1997年、『バッテリー』で野間児童文芸賞を受賞。 1999年、『バッテリー2』で日本児童文学者協会賞を受賞。 2005年、『バッ...