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男衆に殴る蹴るされて、理不尽に入牢させられた女の願いとは

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『藍染袴お匙帖 雨のあと』|藤原緋沙子|双葉文庫

藍染袴お匙帖 雨のあと藤原緋沙子さんの文庫書き下ろし時代小説、『藍染袴お匙帖 雨のあと』(双葉文庫)は、藍染橋の袂で治療院を営む女医の桂千鶴が、治療のかたわら難事件に挑む、「藍染袴お匙帖」シリーズの第14巻です。

文庫の帯に「藍染袴お匙帖シリーズ 累計100万部突破!!」の文字が入っていて、あらためて本シリーズの人気の高さと、著者がいかに多くの読者に支持されているかに驚かされます。
同時に文庫書き下ろし時代小説というスタイルのマーケットの大きさにも気づかされました。

女医の千鶴が松井町の番屋に駆けつけると、元女郎のおつねが腕を折られるなど酷い暴行を受け苦しんでいた。女郎たちの過酷な暮らしを見ていられず、女郎宿「浪速屋」の女将に談判しようとしたところ、男衆から殴られたり蹴られたりしたのだという。しかしおつねも女将の肩を刺したことで、一方的に罪を負わされそうになっていた。千鶴は、京橋の呉服問屋で暮らす七之助という者が、元気に暮らしているか確かめてほしいというおつねの切実な願いを叶えるため、奔走する――。累計百万部突破の超人気シリーズ、待望の第十四弾!

(『藍染袴お匙帖 雨のあと』カバー裏の紹介文より)

桂千鶴とお道は往診先の米沢町の瓢箪長屋に駆けつけました。
袋物師の佐兵衛が、朝の食事を終えた後、仕事を始めると、突然ふあっと倒れたと聞かされてのこと。
千鶴が脈を診て、腕を取って握力などを確認すると、佐兵衛の右手は、千鶴が手を放すと、力なく下に落ちました。
佐兵衛は「ああ、うう……」と言葉にならない声を発し、涙を流して泣いています。

「危ないところでしたね。でも良いお薬を差し上げますから、それをきちんと飲んで、これからは安静にして、仕事は休むこと、お酒は控えて下さいね」
 千鶴は、佐兵衛の顔を見て言った。
 佐兵衛は暗い顔で千鶴を見詰め返した。
「やっぱり、酒は良くねえんで……」
 与七は膝を揃えて尋ねる。
「もちろんです。一番良くないです」
 
(『藍染袴お匙帖 雨のあと』 P.10より)

千鶴は佐兵衛の傍らに控えて父の容態を心配する息子の与七から、日頃の様子を訪ねると、佐兵衛は袋物を作っている間、お茶代わりに酒を飲み、夜も寝酒をやって、ずっと酔っぱらった暮らしをしていました。
最近は以前のようなきめの細かい仕事はできずに、納める店も減って細々と作っていたとも。

長屋の大家によると、佐兵衛は昔は酒などめったに飲まない、仕事一筋の働き者でしたが、四年前、与七が十三の時に、女房が家出をしてから、すっかり変わってしまったと。

千鶴とお道が往診を終えて診療所に戻ると、南町奉行所の同心浦島亀之助と猫八がやってきました。
亀之助によると、馬喰町の横町で小さな八百屋を営む男の妹が、隅田川で死体で見つかったと。亀之助に探索を命じられましたが、今のところは殺しか自分で入水したかはわかりません(第一話 ほととぎすより)。

表題作「雨のあと」では、、診療所を手伝う医師圭之助の母おたよがタコの料理を作り、千鶴らが和やかな夕食を終ろうとしたところに、往診の呼び出しがかかりました。

「先生、千鶴先生!」
 猫八が飛び込んできた。
「雨の中を申し訳ねえんですが、松井町の番屋まで来ていただけねえでしょうか。女が腕が折れて苦しんでおりやして……打撲もしていて痛がっているんです」
 荒い息を吐きながら言った。

(『藍染袴お匙帖 雨のあと』 P.164より)

千鶴と圭之助が松井町の番屋に入ると、四十半ばの小金貸しの女おつねが痛みに堪えて苦悶の声を出してい談判しました。
ところが阿漕な女将は、おつねの言い分に白を切った末に、二人の男衆に「足の一本も折ってやるんだ」とけしかけて、二人は殴る蹴るの暴行をしました。
満身創痍のおつねが女将の肩にかんざしでぶすりと刺したところに、亀之助と猫八が出くわしたために、おつねだけ縄を掛けて番屋に連れていかれます。

千鶴は治療をした後、おつねから願いを聞いてほしいと頼まれました。
京橋にある呉服問屋で暮らす七之助という十九歳の者が元気で暮らしているかどうか確かめてくれないかと。

おつねにとって、七之助はどんな存在だったのでしょうか?
さまざまな因果の糸が絡み合っていきます。

江戸情緒を味わいながら、人情味たっぷりの勧善懲悪の物語に心が癒されます。

現代社会では小説のような正義が行使されることは少なく、思い通りにいかないことばかりでストレスも溜まってしまいます。隣近所の人たちとのコミュニケーションもほとんどなく、都市で疎外感を感じている人も少なくありません。
そんな方たちにおすすめです。
本書を読んでいる間ぐらいは、嫌なことを忘れて物語を堪能してみませんか。

藍染袴お匙帖 雨のあと

藤原緋沙子
双葉社 双葉文庫
2023年9月16日第1刷発行

カバーデザイン:泉沢光雄
カバーイラストレーション:蓬田やすひろ

●目次
第一話 ほととぎす
第二話 雨のあと

本文284ページ

文庫書き下ろし

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『藍染袴お匙帖 風光る』(藤原緋沙子・双葉文庫)(第1弾)
『藍染袴お匙帖 色なき風』(藤原緋沙子・双葉文庫)(第13弾)
『藍染袴お匙帖 雨のあと』(藤原緋沙子・双葉文庫)(第14弾)

藤原緋沙子|時代小説ガイド
藤原緋沙子|ふじわらひさこ|時代小説・作家 高知県生まれ。立命館大学文学部史学科卒業。 小松左京主宰「創翔塾」出身。脚本家を経て時代小説家に。 2013年、「隅田川御用帳」シリーズで、第2回歴史時代作家クラブ賞シリーズ賞を受賞。 時代小説S...