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色見立てのお彩に、流行りの色を作れという難題が与えられ

『江戸彩り見立て帖 朱に交われば』|坂井希久子|文春文庫

江戸彩り見立て帖 朱に交われば坂井希久子さんの連作時代小説、『江戸彩り見立て帖 朱に交われば』(文春文庫)を紹介します。

天性の色彩感覚を持つお彩は、ふと知り合った京男の右近に誘われるように、呉服の色見立てを始めて評判になります。
江戸のカラーコーディネーターが活躍する、連作形式のお仕事小説シリーズの第2弾です。

謎の京男・右近の正体は、呉服屋を営む塚田屋の妾腹の三男坊だった。強引な右近に押し切られ、呉服の色見立てを始めたお彩のもとには、様々な相談が舞い込んでくる。しかし、弟を目の敵にしている塚田屋の主人は、お彩が新たな流行の色を作れなかったら右近を江戸から追い出すと告げる。大好評の文庫オリジナルシリーズ第二弾!

(『江戸彩り見立て帖 朱に交われば』カバー裏の紹介文より)

日蔭町に元彫師の父辰五郎と二人暮らしのお彩は、本石町二丁目の呉服屋塚田屋で、かねてから右近に懇願されていた呉服の色見立てを始めました。

お彩は仕事のときにはこれを着るようにと右近が贈った万筋の着物に着替えて、塚田屋の内儀のお春に化粧をしてもらいます。

「はい、できましたえ」
 肩を叩かれ、目を開けた。お春が手鏡を差し出してくる。覗き込むと、見慣れぬ顔の女がこちらを見返してきた。
 上方風なのか、江戸の女たちより白粉が濃く、唇はぽってりと小さく描かれている。目の際に引かれた紅も切れ長に見せるためではなく、ふんわりとぼかされていた。
「へぇ」
 興味深く、角度を変えてまじまじと見てしまう。しょせんは自分の顔だ。美しいとは思わないが、趣の違いが面白い。
「お気に召さはりましたか」
「ええ。紅の幅を小さくするだけで、少し品よく見えるんですね。眉を太めに描いているのも、上方風ですか」
「いいえ、眉は、そのほうが似合うとおもうただけで」
 
(『江戸彩り見立て帖 朱に交われば』 P.26より)

京の白粉屋が実家のお春は、右近とは幼馴染みだと言います。
お彩は、塚田屋の主人で、右近の兄・刈安(かりやす)から色について試されました。
お春にぴったりな色を選んでみせよと、ただし、刈安色と鬱金色以外で。

(前略)色に聡いと持ち上げらえれたところで、お彩は染物についてはずぶの素人。
 そんなお彩に刈安は、お春に似合う黄みのある色を選べと言う。黄色の染め草は刈安と鬱金の他に、黄檗、丁子、梔子、槐樹など、数多い。その中から決してあやまたず、自分の名である刈安を用いた色を選びだせとというわけだ。
 どうしよう、分からない。頭の中に黄みのある色はいくつも浮かんでいるのだが、どれが刈安染めなのか。色止めの按排までかかわってくるとなると、お手上げだ。。
 
(『江戸彩り見立て帖 朱に交われば』 P.40より)

塚田屋の仕事を失うのが怖いわけではありませんが、「どないしたん、だんまりか。ほれ、早よ色に聡いところを見せてみよし」と、人を小馬鹿にする男に侮られたまま終わるのは悔しく、それ以上に自分の不甲斐なさに腹を立てました……。

お彩は染物の勉強を始め、絵の具とはまた違う染めの奥深さに魅せられていきます。

呉服の色見立ての仕事に面白さとやりがいを感じ始めたある日、お彩は、刈安から「流行りの色」を作ることを約束させられます。作れなかったら、店を辞めさせられるばかりか、右近も江戸から出ていくようにと。

「作ってみせましょう」と胸を張って答えたお彩は、果たして刈安に認められるような「流行りの色」を作り出すことができるのでしょうか?

江戸っ子らしい短気でまっすぐなお彩と、似ても焼いても食えない京男・右近のコンビ漫才のような掛け合いも楽しく、絶体絶命のピンチも二人なら乗り越えることができるかも。

物語では、葛飾北斎が『富嶽三十六景 深川万年橋下』が入荷してきた場面が描かれていましたので、天保二年(1831)~四年(1833)ごろと思われます。

江戸彩り見立て帖 朱に交われば

坂井希久子
文藝春秋・文春文庫
2022年5月10日第1刷

装画:丹地陽子
デザイン:野中深雪

●目次
刈安と鬱金
ゆかりの色
朱に交われば
流行りの色
色の名は

本文234ページ

初出:『オール讀物』2021年2月号、6月号、8月号、11月号、2022年2月号
本書は、文春文庫オリジナル。

■Amazon.co.jp
『江戸彩り見立て帖 色にいでにけり』(坂井希久子・文春文庫)
『江戸彩り見立て帖 朱に交われば』(坂井希久子・文春文庫)

坂井希久子|時代小説ガイド
坂井希久子|さかいきくこ|作家 1977年、和歌山県生まれ。同志社女子大学学芸学部日本語日本文学科卒業。 2008年、「虫のいどころ」で第88回オール讀物新人賞を受賞。 2017年、『ほかほか蕗ご飯 居酒屋ぜんや』で第6回歴史時代作...