犬が泥棒!?瓦版娘・お花が事件を嗅ぎつけ、江戸を駆け回る

『早耳屋お花事件帳 見習い泥棒犬』|松本匡代|ハヤカワ時代ミステリ文庫

早耳屋お花事件帳 見習い泥棒犬松本匡代(まつもとまさよ)さんの文庫書き下ろし時代小説、『早耳屋お花事件帳 見習い泥棒犬』(ハヤカワ時代ミステリ文庫)をご恵贈いただきました。

著者は、2016年に徳川家康を描いた「天下 律義者の十五年」で第66回滋賀県文学祭芸術文化祭賞を受賞し、『試衛館の青春』『石田三成の青春』などの著作をもつ新進時代小説家です。

江戸じゅうの事件を探さずにはいられない! 元気娘お花はネタ探しに今日も奮闘中。黒船来襲に大地震、騒動絶えない安政の世で、神田明神近くに店をかまえる瓦版屋・早耳屋に舞い込んだのは、評判の菓子屋に泥棒が入ったという話。さらに盗み日の昼間に愛らしい犬が店に迷い込んだというのだが、早耳屋にも迷い犬がやってきて……押し込み事件や、殺しの騒動、突然の珍事等々――お花が江戸の騒動を目撃する連作短篇集。

(本書カバー帯の紹介文より)

お花は、神田明神近くで瓦版屋を営む「早耳屋」の清兵衛のひとり娘です。
早耳屋の瓦版は、聞き書き人の巳之助が事件を取材し記事に書いて、清兵衛が版木を彫り紙に刷ります。それを若くていなせな読売人の辰吉が自慢の美声で売り歩くと、一応役割を決めていましたが、三人の共同でネタ探しから売り歩きまで行っていました。
最近はこれに、十八になるお花が加わり、四人力を合わせての作業になっていました。

「ああ暇だ暇だ、何か世間がびっくりするような事件でも起きないかなぁ」
 と、流行りの桃割れに結ってみた髪を気にしつつ、溜息交じりにつぶやいた。
 安政六年。黒船騒ぎに大地震、文字通り江戸の町を揺るがした大事件も、もはや数年前のこと。京の都の町々では去年外国と結んだ条約が気に入らないと浪人者が騒いでいると聞くが、江戸はまだまだ平穏無事。それは滅法有り難いが、ネタに困った瓦版屋の奥を預かるお花には、素直に喜べることではなかった。

(『早耳屋お花事件帳 見習い泥棒犬』「第一話 見習い泥棒犬」 P.9より)

父の清兵衛は「なんという罰当たりなことを。うちのような商売は暇なほうがいいんだ」と怒鳴ってみせるものの、本気で怒っているわけではなく、怖いもの知らずに稼業の瓦版づくりに参加するお花をあまり歓迎していませんでした。

ある日、早耳屋に一匹の白い若犬が迷い込んできました。
迷い犬といえば、この前、若い娘を中心に人気の菓子屋に、犬が迷い込んできた日の夜に泥棒に入られるという事件がありました。
店の主は、泥棒に入られて五両の金が盗まれたことよりも、騒ぎに紛れてどこかにいってしまった犬のことを可哀そうに思ったと言います。

本書は、瓦版屋・早耳屋の元気娘のお花が目撃した、江戸の騒動を描いた、連作時代小説集です。

好奇心旺盛な若い娘らしい行動力と、彼女を支える周囲の人々の手助けが折り合って、人情味あふれるキュートな大江戸少女小説になっています。

早耳屋お花事件帳 見習い泥棒犬

松本匡代
早川書房・ハヤカワ時代ミステリ文庫
2021年2月15日発行

カバーイラスト:いわたきぬよ
カバーデザイン:大原由衣

●目次
第一話 見習い泥棒犬
第二話 過ぎた女房
第三話 逆たま祝言

本文277ページ

文庫書き下ろし。

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『早耳屋お花事件帳 見習い泥棒犬』(松本匡代・ハヤカワ時代ミステリ文庫)

松本匡代|時代小説ガイド
松本匡代|まつもとまさよ|時代小説・作家 1957年、三重県伊勢市生まれ。 奈良女子大学大学院理学研究科物理学専攻修士課程修了。 会社員を経て創作活動を開始。 2016年、「天下 律義者の十五年」で第66回滋賀県文学祭芸術文化祭賞...