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パンデミックを乗り切った「江戸の危機管理術」とは

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『江戸幕府の感染症対策 なぜ「都市崩壊」を免れたのか』

江戸幕府の感染症対策歴史家の安藤優一郎さんの歴史読み物、『江戸幕府の感染症対策 なぜ「都市崩壊」を免れたのか』(集英社新書)をご恵贈いただきました。

歴史家である著者は、江戸時代の社会や経済、政治の仕組みを、最新の資料をもとに、現代人の視点でわかりやすく解説していく歴史読み物を多数著しています。

2020年は新型コロナウイルスが世界的に流行をし、人々の生活や価値観が大きく変わった年として、後に語られるかもしれません。
2020年10月時点では、有効なワクチンや治療薬が開発途上ということもあって、安全で確実性の高い治療法も研究中であり、新型コロナウイルスに対する人々の恐怖心は払拭されていません。

ワクチンや特効薬がないという点では、江戸時代も現代も全く同じです。

江戸時代にも、日本は感染症(天然痘・麻疹・インフルエンザ・コレラ)に苦しめられた。とりわけ、人口が百万を超えた「過密都市」江戸は被害を最も受けやすかったが、都市崩壊のような事態には至らなかった。時の幕府が、医療政策と社会福祉政策に力を入れたからである。徳川吉宗、松平定信らは感染拡大にどう対処したのか? 当時の“持続化給付金”の財源と給付対象は? ワクチンはどのように普及したのか? 現代に通底するトピックを織り交ぜながら、どの町がいかにして危機を脱したかを解き明かす。
(カバー裏の内容紹介より)

本書では、「江戸幕府の感染症対策」を解き明かし、いかにしてパンデミックを乗り越えて、江戸の町の崩壊を免れることができたのか、その危機管理術を解き明かしていきます。

 江戸時代に目を転じると、感染症の流行時に最も多くの感染者を出したのが、将軍のお膝元・江戸であった。
 ワクチンや特効薬がない点では、江戸時代も現代もまったく同じである。つまり、コロナ禍により引き起こされた光景は、江戸時代においてもみられたものだった。幕末のコレラ騒動に象徴されるように、江戸も感染症の流行時には大パニックに陥ったが、それだけではない。

(『江戸幕府の感染症対策』「プロローグ 感染症の歴史」P.10より)

感染を防ぐ一番の方法は人との接触を避けることで、江戸時代にも感染者の隔離や接触の制限などの対応が取られていました。上からの指示のほか、自ら制限する「自粛」も見られました。

その反面で、人が集まる銭湯、髪結床、遊郭、あるいは料理屋や芝居小屋など盛り場は閑古鳥が鳴き、結果、経済活動が停滞して景気が悪化し、生活困難に陥る者も続出しました。

社会が動揺して、江戸が都市崩壊に至る危機に瀕し、幕府の対応によって最悪の事態は免れました。
いったい、幕府は感染症の流行が招いた社会危機をどのように乗り切ったのでしょうか

本書では、5つの章を通して、感染症の流行とその対策を通して、江戸の社会の知られざる一面を紹介していきます。

感染症流行時にみせた江戸の危機管理術は、コロナ禍に苦しむわたしたちに大きなヒントを与えてくれるように思います。

 名主が該当者の調査を命じられたのは三月十七日のことだが、早くも翌十八日には名主を通じて其の日稼ぎの者の名前が報告され、町会所から銭が給付される。名主による調査が迅速に進んだからにほかならない。
 感染の有無などをいちいち調査をしていては、こんなに早く報告できなかった。御救金の給付もかなり遅れただろう。この時は三月十八~二十九にちのわずか十二日間で給付が完了しており、一日あたり二万人以上に給付した計算になっていた。

(『江戸幕府の感染症対策』「第三章 江戸町会所の“持続化給付金”」P.117より)

疫病の流行を理由に、享和二年(1802)三月に、生活基盤が脆弱な其の日稼ぎの者への救済として給付された、「臨時御救」(=持続化給付金のようなもの)の実施について、詳述されています。

幕府は、感染症に対して防疫や治療など医療体制が不十分な中で、経済政策も兼ね備えた社会福祉政策に力を入れました。
それは、生活支援を大規模に実施して社会の安定を目指すとともに、経済活動が好転することを期待した「江戸の危機管理術」でした。

謙虚に歴史に学ぶことの重要性に気づかせてくれる一冊です。

江戸幕府の感染症対策 なぜ「都市崩壊」を免れたのか

著者:安藤優一郎
発行:集英社 集英社新書
2020年10月21日第1刷発行

装幀:原研哉

●目次
プロローグ 感染症の歴史
第一章 江戸の疫病と医療環境
(1)江戸の流行病
(2)江戸の医療環境と薬ブームの到来
第二章 将軍徳川吉宗の医療改革と小石川養生所の設立
(1)薬草の収集と国産化政策
(2)疫病の流行と処方集の配布
(3)小石川養生所の設立
(4)江戸の下層社会と生活補助
第三章 江戸町会所の“持続化給付金”
(1)江戸の飢饉と米騒動
(2)寛政の改革と江戸町会所の誕生
(3)給付金が支給される三つの理由
(4)天保の大飢饉と都市崩壊の危機
第四章 幕末のコレラ騒動と攘夷運動の高揚
(1)幕末の政情不安と開国
(2)コレラ大流行
(3)連続する疫病の流行と社会情勢の悪化
(4)江戸開城と町会所
第五章 種痘の普及と蘭方医術の解禁
(1)種痘技術の導入
(2)種痘所の設置
(3)医学所の誕生
エピローグ 感染防止と経済活動の維持
参考文献

本文206ページ

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『江戸幕府の感染症対策』(安藤優一郎・集英社新書)

安藤優一郎|著作ガイド
安藤優一郎|あんどうゆういちろう|歴史家 1965年、千葉県生まれ。歴史家。文学博士。 早稲田大学教育学部卒業、同大学院文学研究科博士後期課程満期退学。 主に江戸をテーマとして執筆・講演活動を展開。 ■時代小説SHOW 投稿記事 『30の神...