おんな与力は辰巳芸者姿で探索し、女武芸者姿で悪と戦う

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『おんな与力 花房英之介(二)』|鳴神響一|双葉文庫

おんな与力 花房英之介(二)鳴神響一さんの文庫書き下ろし時代小説、『おんな与力 花房英之介(二)』(双葉文庫)をご恵贈いただきました。

『おんな与力 花房英之介(一)』に続く、文庫書き下ろし新シリーズの2カ月連続刊行の第2弾です。
前作では、おんな与力の花房英之介が誕生するまでがスリリングに描かれ、そして、幼馴染で親友の火盗改与力の熱田雄之進が同輩殺しの疑いで捕らえられるという事態が起こりました。
その行方が気になる形で、本書が始まります。

頭脳明晰、剣も達者な美男与力、花房英之介には命懸けの秘密がある。それは五年前に死んだ双子の兄の身代わりとして生きる、女であること。北町奉行所で活躍する英之介のもとに幼馴染、熱田雄之進が火盗改の同輩を殺め、捕らえられたとの報せが。友の無実を信じ奔走する英之介は悪の端緒をつかみ、吉原遊郭へ潜る。迎えたのは世にも美しい花魁、浮雲で……。ままならぬ恋心を胸に秘め、おんな与力は正義の剣を抜く! 大好評シリーズ第二弾!

(本書カバー裏の紹介文より)

時代は、明和四年(1767)。
北町奉行所与力の花房英之介は、親友熱田雄之進の無実を信じ、役儀ではなく私情をもって、独自の探索を始めました。

「実は幼い頃からの友垣が窮地に陥っている……」
 英之介は、熱田雄之進が陥っている苦境を茶ら平とユキに詳しく聞かせた。
「そいつは大変な話ですねぇ」
 茶ら平は鼻から大きく息を吐いた。
「雄之進は心穏やかで、いつも平常心を失わぬ男だ。わたしにはあいつが喧嘩口論で朋輩を斬るなどということは信じられぬのだ」

(『おんな与力 花房英之介(二)』 P.15より)

小網町の船宿『しみづ屋』で女将のユキと、英之介の一の子分を自称する幇間の茶ら平に、英之介は雄之進が陥っている苦境を伝えて助力を求めました。
ユキは火盗改の与力たちが吉原で遊んでいるという噂を話し、茶ら平は吉原の浮雲花魁を紹介できると言い、英之介に吉原に繰り込んで探索をすることを勧めました。

吉原遊郭を知らない英之介に、茶ら平が事細かに指南をし、英之介は総髪姿の医者に扮して吉原に足を踏み入れました。

そのくだりはディテールまでわかりやすく紹介され、吉原のガイドという形で、興味深く読み進めることができます。
亡くなった英之介の父に多大な恩を受けたという茶ら平。ただの軽薄な幇間とは思われぬ洞察力と有能さを兼ね備えた頼りになる相棒で、気になる存在です。

男に化けた女も一発で見抜くという、女の出入りを厳しく取り締まる吉原に、英之介が男姿で入っていきます。

「ご直参にはいろいろと厳しい決まりがございますものね」
 さすがに浮雲はよく知っているようだ。
「ですが、わたしh目付方のものではない。与力たちの不行跡を取り締まる役目ではありません。恐れているのは加役役所の綱紀がゆるみ、与力たちが役目に倦み、腐ってきているのではないかということです……」
「それがために、ご友人の熱田さまが濡れ衣を着せられたと、花房さまはお考えなのですね」

(『おんな与力 花房英之介(二)』 P.59より)

英之介は茶ら平の仲立ちで首尾よく、浮雲花魁と会うことができ、事件の真相に一歩近づくことに。

実は女である英之介(=志乃)は、艶やかな辰巳芸者姿で聞き込みをするほか、新たに『清水雪緒』と名乗る女武芸者姿となって、悪の前に現れます。
男姿のおんな与力が、男装の女武芸者に扮するという、禁断の設定でドキドキ感も痛快さも最高潮に。癖になる面白さです。

本シリーズの表紙装画は、『おいらん若君 徳川竜之進』シリーズに続いて、山本祥子さんが担当されています。
乙女心を押し隠して、一生懸命に男・英之介として与力を務める志乃。
そんな彼女を描き、往年の少女漫画を想起させるような、花に彩られて鮮やかな表紙も作品にマッチしていて素敵です。

おんな与力 花房英之介(二)

鳴神響一
双葉社・双葉文庫
2021年4月18日第1刷発行

カバーデザイン:長田年伸
カバーイラストレーション:山本祥子

●目次
第一章 浮雲大夫
第二章 見えぬ影
第三章 雪緒見参
第四章 人のこころ

本文258ページ

文庫書き下ろし。

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『おんな与力 花房英之介(一)』(鳴神響一・双葉文庫)
『おんな与力 花房英之介(二)』(鳴神響一・双葉文庫)

鳴神響一|作品ガイド
鳴神響一|なるかみきょういち|時代小説・作家1962年、東京都生まれ。中央大学法学部卒。2014年、『私が愛したサムライの娘』で第6回角川春樹小説賞を受賞してデビュー。2015年、同作品で第3回野村胡堂文学賞を受賞。■時代小説SHOW 投稿...