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江戸落語の始祖は敵持ち?鹿野武左衛門の波瀾の半生を描く

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『江戸落語事始 たらふくつるてん』|奥山景布子|中公文庫

江戸落語事始 たらふくつるてん奥山景布子(おくやまきょうこ)さんの長編時代小説、『江戸落語事始 たらふくつるてん』(中公文庫)を入手しました。

著者は、文庫書き下ろしの『寄席品川清洲亭』シリーズや、近代落語の祖、三遊亭圓朝の波瀾の生涯を描いた『圓朝』、その圓朝が創作した名作落語「真景累ヶ淵」を小説化した『小説 真景累ヶ淵』と、落語に題材を取った時代小説を精力的に発表されています。

本書の主人公は、「江戸落語の始祖」といわれ、将軍綱吉の時代に咄家として活躍した、鹿野武左衛門(しかのぶざえもん)です。

口下手の甲斐性なしが「江戸落語の始祖」!? 覚えなき殺人罪で京から江戸に追われた鹿野武左衛門。仇討ちの恐怖に怯える中、馬鹿咄をする才を見いだされ、崖っぷち人生が変わっていく。将軍綱吉による激しい言論弾圧やコレラの騒動に抗い、命を賭して“笑い”を生んだ伝説的咄家の知られざる物語。『たらふくつるてん』より改題。

(本書カバー裏紹介より)

延宝八年(1680)春、塗師職人の武平(ぶへい)は、京都の北野八幡宮の境内で、露の五郎兵衛の辻咄を聞いてうらやましく思っていました。

――ええな。ああいうの、わしもやってみたい。
ところが、武平は、親方や兄弟子たちとさえ、うまく言葉の交わせないうえに、白髪交じりで風采の上がらぬ三十路の小男でした。

女房のお松にも、浄瑠璃や芝居、見世物好きで余分に稼いだ金を、木戸銭や投げ銭に使ってしまい、たびたび諍いの末に、離縁状を突き付けられてしまいました。

独り身になったある日、武平は覚えのない殺しの疑いを掛けられて、侍に仇として追われることになりました。

武平のキャラクターとあいまって、本来は深刻な事態のはずが、艶笑譚のように話が展開していきます。

 武平は「小絵と密通しているのを中間に蜜って殺した」上に、「一緒に逃げようと金を持ち出した小絵まで殺して、金を奪って一人で逃げた」とされており、小絵の新婚の夫・竜吉には、姫路藩から正式に仇討ちの免状が与えられたという。
「竜吉というお人は、播磨の郷士の出、いうことや。そこの家の兄さんと二人、田舎剣術道場の腕自慢やと。どうも兄さんが助太刀に付いて、二人でおまえの行方をどこまでも追って討ち取る気ィや、いうことになってるみたいやで」

(『江戸落語事始 たらふくつるてん』P.50より)

章太郎が調べてくれたところでは、武平が殺したことにされた武家の奥方、小絵は姫路藩で京詰めの下士の家付き娘で、竜吉を婿に迎えたばかりだったらしいとのこと。

武平は京にいられなくなり、生まれ故郷の摂津と山城の国境にある村で庄屋をやっている幼馴染みの章太郎に、手形を手配してもらい、を江戸へやってきました。

金もなく、伝手もない、武平(仇討ちを恐れて、喜六、鹿平と名を変えます)が、いかにして咄家、鹿野武左衛門となって、江戸で活躍していくのでしょうか。

武平に掛けられた殺しの嫌疑と仇討ち話の先行きも気になり、物語に引き込まれていきます。

江戸落語事始 たらふくつるてん

奥山景布子
中央公論新社 中公文庫
2021年1月25日初版発行

カバーイラスト:後藤範行
カバーデザイン:岡本歌織(next door design)

●目次
序 マクラ
一 発端 東の旅
二 日本橋
三 鹿野武左衛門
四 三枚起請
五 花見の仇討ち
六 仲間割れ
七 業
八 流人船
結 ご祝儀
解説 松尾貴史

本文353ページ

単行本『たらふくつるてん』(中央公論新社、2015年9月刊)を文庫刊行に際して改題したもの。

■Amazon.co.jp
『江戸落語事始 たらふくつるてん』(奥山景布子・中公文庫)
『寄席品川清洲亭』(奥山景布子・中公文庫)
『圓朝』(奥山景布子・中央公論新社)
『小説 真景累ヶ淵』(奥山景布子著、古今亭菊之丞監修・二見書房)

奥山景布子|時代小説ガイド
奥山景布子|おくやまきょうこ|時代小説・作家 名古屋大学大学院文学研究科博士課程修了。文学博士。高校教諭、大学専任講師などを経て創作を始める。 2007年、「平家蟹異聞」で第87回オール讀物新人賞受賞。2009年、受賞作を含む『源平六花撰』...