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家康、飛躍の敗戦、三方ヶ原合戦で徳川軍団はいかに戦ったか

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家康の猛き者たち 三方ヶ原合戦録佐々木功(ささきこう)さんの文庫書き下ろし長編小説、『家康の猛き者たち 三方ヶ原合戦録』(ハルキ文庫)を紹介します。

本書は、徳川家康軍が戦国最強と謳われた武田軍と迎え撃った三方ヶ原の戦いに焦点を当てて描いた長篇歴史時代小説です。

司馬遼太郎さんの『覇王の家』をはじめ、家康の生涯を描いた作品では、三方ヶ原の戦いは必ず登場しますが、この合戦だけに光を当てて描いた小説は少ないように思います。

今こそ家康の求心力を高め、鉄の家臣団を作り上げる。それこそが徳川家を強くすることに繋がる。その要となる人物は「本多平八郎忠勝」しかいないと徳川家康は考えていた。甲斐の武田信玄が勢力を伸ばす中、遠江国二俣城をめぐり、争いは続いていた。先行した忠勝と武田軍が一言坂で激突した後、両軍は三方ヶ原で再び相見えることとなる。徳川勢八千に織田勢三千が加わった、総勢一万一千の部隊が、武田勢三万に挑む。常に激闘の中に身を置きつつも、生涯傷一つ負わなかったという徳川軍団随一の武者、本多平八郎忠勝を描くエンタテインメント歴史時代小説。
(カバー裏の内容紹介より)

本書の主人公は、家康とともに徳川軍団の武将たちです。

中でも、後に徳川四天王と呼ばれるようになる本多平八郎忠勝は、軍団随一の無双の勇士として描かれています。

 左近が手綱を引き、追いかけようと馬腹を蹴りかけた瞬間、後ろから凄まじい殺気が迫る。
「左近殿、後ろ」
 絶叫が響き渡る。
「本多か!」
 見ずとも、わかった。その逞しい黒馬が大地を踏み鳴らす音が響く。振り返るや、阿修羅のごとき顔がみるみる大きくなる。
「この!」
 左近が槍を構えたところに、来た。鋭く重い槍の一撃が。ガチンと弾いて躱す。一瞬、のけ反りそうになる身を馬上で保つ。ブウンと空を斬る音が響き渡る。続く二の槍をこれまた不利な体勢で響き返す。

(『家康の猛き者たち 三方ヶ原合戦録』P.156より)

三方ヶ原の戦いは、上洛を目指した武田信玄の西上作戦によって起こった戦いで、本書は、その前哨戦となる、一言坂の戦いと二俣城の戦いとあわせて描かれていきます。

二丈(約6メートル)の長い槍「蜻蛉切(とんぼきり)」を駆使する槍の名手平八郎は、一言坂で、武田騎馬隊の先鋒をつとめる荒武者・小杉左近と対決し、一蹴しました。

このときに、「家康に過ぎたるものが二つあり、唐の頭に本多平八」の狂歌を小杉左近が残したといわれています。

「信玄は従わない者は根絶やし。皆、死ぬわ」
 冷たい響きに、おもわず正成は八重の顔を見なおす。その表情は朝冷えの湖水のように澄みきっている。白い頬の上で瞳だけが鋭利な刃のように底光りしていた。
 ぞくりとする。さきほどまでの艶めかしい瞳とはまるで別人だった。
「死にたくないだろ」
 八重は言葉を繋ぐ。

(『家康の猛き者たち 三方ヶ原合戦録』P.191より)

本書で、平八郎とともに家康の猛き者として描かれた武将に、二代服部半蔵正成(まさなり)がいます。
「伊賀越え」に際しても功績が大きく「徳川十六神将」の一人です。

父の服部半蔵保長が忍びの頭領として率いる服部党は徳川家に仕えていました。正成は幻術も使える一流の忍びでしたが、このとき、部屋住みの身で主君家康よりも女にうつつを抜かしていました。
そして、女忍びの八重と睦み合った後に、一緒に組んで信玄を暗殺するように誘われました……。

徳川軍団の表の看板・本多平八郎に対して、裏の仕事を一手に引き受ける服部正成。
人間味あふれる正成に共感を覚えました。

虚実を織り交ぜた、家康の猛き者たちが躍動していく、血沸き肉躍るような戦国ドラマが展開していきます。

なぜ、家康は敗けると分かっていた武田軍と三方ヶ原で戦ったのか。
そして、家康はこの戦いで何を失い、何を得たのか。

三方ヶ原の戦いが、家康にとって人生のターニングポイントであり、徳川軍団を率いるリーダーとして大きな飛躍をする踏み台となったように思われます。

単文を畳みかけるような、著者特有の描写が物語にリズム感とスピード感を与えて、450ページを超える長篇ながら、一気読みさせてしまいます。

これまで家康の人物像にあまり惹かれてこなかったのですが、遅ればせながら最近ようやく、スケールの大きさ、素晴らしさ、偉さがわかりかけてきました。

家康の猛き者たち 三方ヶ原合戦録

著者:佐々木功
ハルキ文庫
2020年4月18日第1刷発行
文庫書き下ろし

装画:中野耕一
装幀:かとうみつひこ

●目次
序章 大坂夏の陣
第一章 一言坂の過ぎたるもの
第二章 合代島の忍び
第三章 決戦三方ヶ原
終章 偃武

本文453ページ

■Amazon.co.jp
『家康の猛き者たち 三方ヶ原合戦録』(佐々木功・ハルキ文庫)
『覇王の家(上)』(司馬遼太郎・新潮文庫)

佐々木功|時代小説ガイド
佐々木功|ささきこう|時代小説・作家 大分県大分市出身。早稲田大学第一文学部卒業。 2017年、『乱世をゆけ 織田の徒花、滝川一益』で第9回角川春樹小説賞を受賞しデビュー。 ■時代小説SHOW 投稿記事 amzn_assoc_ad_type...