愛すべき、天下の愚将・斎藤龍興の半生を描く戦国一代記

蝮の孫天野純希(あまのすみき)さんの時代小説、『蝮の孫』(幻冬舎時代小説文庫)を入手しました。

2020年の大河ドラマ「麒麟がくる」に、斎藤道三の孫、斎藤龍興が登場するかどうかはわかりませんが、同時代の武将の一人として、その生涯を知っておきたいと思いました。

権謀術数を駆使して美濃の蝮と恐れられた名将・斎藤道三の孫、龍興は酒と女に溺れて戦嫌い。だが、織田信長に国を追われて流浪するうち、武芸に励み、兵法を学びながら次第に合戦の虜に。何度も信長に挑み、追い詰めていく……。愚将と呼ばれながらも、群雄割拠の時代の魔王に怯まず対峙し、家臣や民を愛し続けた斎藤龍興とは何者か。戦国一代記。
(カバー裏の紹介文より)

斎藤龍興は、道三を攻め滅ぼした父義龍の死後十四歳で美濃国主になりました。前半では、酒と女に溺れて戦嫌いというダメ主君ぶりを発揮します。ある日、家臣の竹中重治らの謀叛によって城を追われ、力を失っていきます。

「道三さまの首を討ったのは、それがしにござる」
 櫓を操る手を止めず、源太は先を続ける。。
「あの戦の折、功名に逸って本陣に駆け込んだそれがしに、道三さまは実に穏やかな顔でこう訊ねられました。龍興は達者か。武芸の稽古や学問が嫌だと駄々をこねてはおらぬか、と。それから、龍興を護ってやってくれと言い残し、それがしに御首級を差し出されたのです」
「そうだったのか」
「先代さまにしても同じにございます。龍興のこと、頼み申し候。血を吐き、死の苦しみに襲われながら最期に遺された、先代さまのお言葉にござる。憎み合い、互いの命を奪い合ったおふたりが、奇しくも最期に案じておられたのは、お館さまのことにござる」
「馬鹿な。祖父さまはともかく、父上は私のことなど……」
(『蝮の孫』P.56より)

小牧源太は、家中きっての槍の名手で龍興に近侍する馬廻衆の筆頭。義龍が道三を破った長良川の戦いに参戦していました。龍興は、居城の稲葉山城を竹中重治によって追われて逃げる場面で、源太の唐突の告白を聞きます……。

信長の時代を描く、歴史・時代小説の多くでは、城を追われた後の龍興については描かれる触れられることが少ないように思います。
本書で描かれる、龍興の再起ぶりは爽快感があり、とても興味深いです。

●目次
第一章 蝮の孫
第二章 愚者と敗者
第三章 信長
第四章 剣を取る者
第五章 暁の軍師
第六章 誰がための旗
第七章 波浪の果ては
第八章 旗はなくとも
解説 旭堂鱗林

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『蝮の孫』 (天野純希・幻冬舎時代小説文庫)

天野純希|時代小説ガイド
天野純希|あまのすみき|時代小説・作家 1979年、愛知県生まれ。 2007年、『桃山ビート・ドライブ』で第20回小説すばる新人賞を受賞しデビュー。 2013年、『破天の剣』で第19回中山義秀文学賞を受賞。 2019年、『雑賀のい...