大衆文学巨匠による奇想の捕物術史、60年経て初の単行本化

『小説 捕物にっぽん志』|白井喬二|捕物出版

小説 捕物にっぽん志白井喬二(しらいきょうじ)さんの捕物小説集、『小説 捕物にっぽん志』オンデマンド本をご恵贈いただきました。

著者は、『富士に立つ影』『盤嶽の一生』『新撰組』などの代表作をもつ昭和に活躍した時代小説作家です。
当時は、時代小説を大衆文学と呼ぶことが一般的で、大衆文学界を代表する作家の一人です。

本書は、昭和36年~38年の2年間にわたって、「歴史読本」(人物往来社)に連載された作品。
実に初出から60年近くを経て、初の単行本化となります。
オンデマンド印刷だからこそ実現できたことですが、出版までの道筋は大変だったことと推察されます。

古代から明治に至るまでのさまざまな事件のエピソードを、奇書、怪書を含む様々な文献を駆使して、著者独自の歴史観で小説として綴った日本の探偵術史。
「歴史読本」に2年間にわたって連載された本作を約60年ぶりに初の単行本化。本文399ページ。
(Amazonの内容紹介より)

古代の「民器の巻」から明治後半の「銀行金紛失事件」まで、ほぼ年代順に「捕物」にまつわる16のエピソードを独自の史観を交えて綴った、捕物術史といえるものです。

西暦前660年ころから始まる「民器の巻」では、穴居人種“土蜘蛛”の中にいた捕物の名人について紹介しています。

 この土蜘蛛の中に捕物がいた。
 いきなりこう書くと、捕物小説のためにムリにもそんな人物を登場させると思うかもしれぬが、決してそうではない。元来土蜘蛛という人種が、早くいえば、すでに捕物的性情を有する種族なのである。
 それだから、ここから書き出して見たわけだ。
 捕物の元祖。
 
(『小説 捕物にっぽん志』「民器の巻」P.2より)

ああ、なんという書き出しでしょうか。

土蜘蛛は、天孫人種、神武天皇の一派が国内の一番良い場所を占領してしまったので、身を守るために山地に退いた関係上、強風暴雨を防ぐために穴居せざるを得なかったが、優秀だったとしています。
そして穴居人種は背の低い人種で、すばしこくて生まれながら探りに適していたとも。

「民器の巻」では、土蜘蛛の聯小(れんしょう)という捕物の名人が、『石歴翁(しゃくれきおう)』というこの世に一つしかない貴重な石器を探し当てたというエピソードを艶笑話を交えて綴っていきます。

当麻蹴速(とうまのけはや)や長髄彦(ながすねひこ)、饒速日命(にぎはやひのみこと)、可美真手(うましまで)といった神話時代の人物たちも絡んでいきます。宝物の争奪戦は太古から、捕物の一つのテーマだったんです。

「男装の巻」は、十四代仲哀天皇の時代に移り、白帑喜剣(しらぬきけん)という土偶師の男の捕物術が描かれています。

「宿禰様はホコトリという事をごぞんじですか?」
「ホコトリはわりこみの事だろう。わりこみ即ち忍びまたは斥候だ。ほかに匍匐ともいう這々攻めも同じじゃ。喜剣、それがどうしたと申すのだ」
「いや降参しました。博学でいらっしゃいますな。まったく、その通りでございます」
「だから、どうしたと申すのじゃ?」
「はい。ではお聞き下さい」

(『小説 捕物にっぽん志』「男装の巻」P.38より)

喜剣は、5代の天皇に仕えた忠臣・武内宿禰(たけしうちのすくね)に、皇后様が男装をする夢を見たと告げました。宿禰は口止めをしましたが……。

不思議な味の規格外の奇書に出合い、衝撃を受けました。

話は源平期、室町、戦国、江戸と下っていきます。
江戸時代では、大岡越前にまつわるエピソードが四話中三話を占めていて、取り上げている題材には濃淡があって、著者の関心がどこに置かれているのか、気になりました。

この作品を読み通すことで、捕物小説の知識と愛が深まっていくように思います。

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小説 捕物にっぽん志

白井喬二
捕物出版
2021年3月20日 オンデマンド版初版発行

目次
民器の巻
男装の巻
源平の巻
隠岐脱出の巻
加藤千畳館の巻
一休歌行脚の巻
異国遊侠の巻
如水・備後主従の巻
慶安事変の巻
大岡越前の巻
白子屋おくまの巻
天一坊真相の巻
開港物語喜遊の巻
前原一誠動乱の巻
風俗史御茶ノ水事件の巻
銀行金紛失事件の巻

本文399ページ

本書収録作品は、「歴史読本」(人物往来社)昭和36年6月・7月号から昭和38年5月号まで連載されたもの。

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『小説 捕物にっぽん志』オンデマンド本(白井喬二・捕物出版)

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