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大坂を描く時代小説の面白さ

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引き続き、築山桂さんの『一文字屋お紅実事件帳 紅珊瑚の簪』を読んでいる。司馬遼太郎さんの短篇など、江戸時代の大坂を描いた時代小説はいくつかある。

それらの作品に共通する面白さは、主人公が武士ではなく、商人である点だ。もともと大坂では武士は少なく、諸藩が蔵屋敷に派遣した蔵役人か大坂城代、東西町奉行所の役人くらいであった。浪人が京・大坂に定住することは難しく、往来で侍を見かけることも少なかったという。

一文字屋の女中お源は、大坂に来て日が浅いお紅実に、以下のように説明している。

「そら嬢はん、江戸には将軍様、京都には天皇様がいてはるように、大坂には長者様がいてはるんです。町のまんなかにお屋敷を構えて、将軍様や天皇様に町の者が手も足も出んように、町の者は長者様には頭を下げるだけ。同じ商人でも遠い遠いとこにおる相手。この町はあの長者様たちが動かしているようなもんです」

(『一文字屋お紅実事件帳 紅珊瑚の簪』P.50)

長者といわれるのは、鴻池屋、天王寺屋、住吉屋といった大坂の豪商を指す。豪商たちが集まる今橋界隈は長者町とも呼ばれる。

それだけに、大坂時代小説では、商人たちがいかにお金の力を使って、権力者をもつ武士と対抗していくかが見どころになる。『一文字屋お紅実事件帳 紅珊瑚の簪』にも、そんな対決シーンが描かれている。主人公のお紅実は、江戸育ちの大坂娘という設定で、江戸と大坂の対比も楽しめる。