『ごんげん長屋つれづれ帖(七) ゆめのはなし』|金子成人|双葉文庫
なんで長屋時代小説を読むと、幸せな気分に浸れるのでしょうか。
金子成人(かねこなりと)さんの文庫書き下ろし時代小説、『ごんげん長屋つれづれ帖(七) ゆめのはなし』(双葉文庫)は、読書中・読了後に気分が良くなる長屋時代小説で、とくにお気に入りのシリーズです。
好きすぎて「COLORFUL」にもブックレビューを載せていただいたこともありました。
女手一つで3人の子供を育てる質舗の番頭お勝を中心に、根津権現門前町の裏店『ごんげん長屋』の住人たちが繰り広げる、人情長屋小説シリーズの第七弾。
一話完結の連作形式で、長屋周辺で起こった出来事や騒動が綴られていき、癖になる面白さがあります。
貸本屋の与之吉が貸し出した本に記されていた『たすけて』の文字、与之吉から話を聞いたお勝と女房のお志麻が貸出先を調べるように勧めたところ、相手は大勢の奉公人を抱える日本橋の両替商だとわかった。だが書いた者が名乗り出ることはなく困惑するお勝たちだが、数日後、若い娘が『ごんげん長屋』を訪ねてきて――。くすりと笑えてほろりと泣ける。これぞ人情物の決定版。時代劇の超大物脚本家が贈る、大人気シリーズ第七弾!
(『ごんげん長屋つれづれ帖(七) ゆめのはなし』カバー裏の内容紹介より)
お勝は、ごんげん長屋で路地を挟んではす向かいに住む、貸本屋の与之吉から相談があると声を掛けられて夕餉の片付けが終わった後で、与之吉とお志麻夫婦の家を訪れました。
与之吉は、貸本で人気の『東海道中膝栗毛』の第五編の挿絵の余白に、『たすけて』と書き込まれている箇所をお勝に店て、これが二度目のことだと話しました。
女房のお志麻とお勝は、本を貸した先を訪ねて誰が書きこんだかを聞いてみたらいいじゃないかと勧めました。
調べてみると、貸出先は日本橋室町三丁目の両替商『天王寺屋』で、二十人の奉公人と七、八人の住み込み女中がいる、中どころの店だと。しかし、与之吉が店を再度訪れると、本に字を書きこんだ者は誰も名乗り出ませんでした。
ところが、それから三日経った午後、ごんげん長屋を商家の奉公人のような十六、七くらいの娘が訪ねてきました。ところが、与之吉もお志麻もおらず、大家の伝兵衛も留守だったので、お勝の勤める質舗の『岩木屋』に、お勝の娘のお琴が娘を連れてきました。
「貸本屋の与之吉さんに借りた本のことで、会いに立ち寄りました」
娘は、やや強張った面持ちで口を開いた。
「もしかして、室町の『天王寺屋』って両替屋の?」
そんな言葉がお勝の口を衝いて出ると、
「わたしは、りょうといいます」
「間違ってたらごめんなさいよ。ひょっとして、与之吉さんの本に『たすけて』と書き込みをしたのは――」
(『ごんげん長屋つれづれ帖(七) ゆめのはなし』「第四話 ゆめのはなし」P.232より)
おりょうは、書き込みをした仔細を語りだしました。
それは思いもかけない話でした。
時代劇の名脚本家らしいストーリー展開で、ハラハラドキドキしながらも、最後は幸せな気分になりました。
本書では、他に『岩木屋』の箱入り娘お美津の初めての恋を描いた「恋娘」、疲れから倒れてしまった大家の伝兵衛の仕事ぶりと来し方に触れた「男の身上」、神田松下町の道具屋に婿入りした男の悲喜劇を綴った「鬼の棲み家」の連作三話を収録しています。
一話ずつじっくり味わいたいところでしたが、今回も名手の語り口に乗せられてあっという間に読み終えてしまいました。しかし、後味の良さはずっと残っています。
長屋の人情、親子の情、夫婦の愛、人の情けの温かさが堪能できる「ごんげん長屋つれづれ帖」シリーズがいつまでも続くことを願っています。
ごんげん長屋つれづれ帖(七) ゆめのはなし
金子成人
双葉社 双葉文庫
2023年9月16日第1刷発行
カバーデザイン:寒水久美子
カバーイラストレーション:瀬知エリカ
●目次
第一話 恋娘
第二話 男の身上
第三話 鬼の棲み家
第四話 ゆめのはなし
本文283ページ
文庫書き下ろし
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『ごんげん長屋つれづれ帖(一) かみなりお勝』(金子成人・双葉文庫)
『ごんげん長屋つれづれ帖(六) 菩薩の顔』(金子成人・双葉文庫)
『ごんげん長屋つれづれ帖(七) ゆめのはなし』(金子成人・双葉文庫)