江戸剣術界に旋風を巻き起こす、中西忠太とやさぐれ剣士達

『胎動 熱血一刀流(二)』

胎動 熱血一刀流(二)岡本さとるさんの文庫書き下ろし時代小説、『胎動 熱血一刀流(二)』(ハルキ文庫)を入手しました。

本書は、江戸中期に小野派一刀流中西派(中西派一刀流)の剣術道場を興した、剣豪・中西忠太(諱は子定)を主人公とする、人情剣豪小説シリーズの第2弾です。

道場を破門されたやさぐれ剣士たちを集めて、自らの道場を開いた小野派一刀流の剣客・中西忠太。五人の若弟子に鬼師範と呼ばれ、厳しい猛稽古を強いながら、来るべき仕合に勝つことを目指し、剣術に明け暮れる充実の日々を過ごしていた。一方で、入門直後に忠太と衝突して道場を去っていった、市之助のその後を心配する弟子達は……。実戦でも勝てる真の強さを身に付けるため、修練をひたすらに続けるのみ――傑作剣豪人情小説第二巻。
(カバー裏の内容紹介より)

昨年暮れに、忠太の兄弟子で小野道場のご意見番、千二百石取りの旗本酒井右京亮が中西道場に乗り込んできました。右京亮は、中西道場が開発した、立合用の“いせや”という稽古刀を見つけて、「剣術は子供の遊びではない」と忠太の稽古法に異を唱えました。

子供の遊びと言われて、忠太も我慢がならず、言い争いとなり、一年後に小野道場の門人と試合をすることで決着をつける約束をしました。

宝暦二年(1752)正月四日、下谷練塀小路の中西道場の初稽古が始まりました。

 型、組太刀、打ち込み稽古、延々と続く素振り、稽古刀“いせや”を手に、師範・中西忠太に打ちかかる立合稽古、稽古場の内をひたすら走る駆け足……。
 三が日の正月気分は、すべて四日の稽古で吹き飛んだ。
 
(『胎動 熱血一刀流(二)』P.30より)

五人の弟子達は、久しぶりの稽古で凝り固まった体の節々が痛みながらも、それさえも心地よく感じられるほどに体力がついてきて、猛稽古が苦にならなくなっていました。

苛めるように体を動かせば、確実に自分は強くなっていくと気づき、忠太を“鬼”と恨むのではなく、そのように茶化す余裕が身についていました。

「市さん、どうしているんだろうなあ」
 拵え場や稽古場で五人が笑い合う一時に、未だにふっと口をつくのがこの言葉であった。
 安川市之助。
 小野道場を破門された剣士の一人で、今は中西道場の門人となった、忠蔵以外の四人の兄貴分的な存在であった。

(『胎動 熱血一刀流(二)』P.31より)

拵え場(こしらえば)という言葉がわからずに、調べてみたところ、歌舞伎の早替わりなどで、化粧や衣装などの扮装がえを手ばやくするため、舞台わきなどに化粧道具などを用意しておく場所をいうそうです。歌舞伎出身の著者にはなじみのある言葉なのでしょう。道場であれば着替えや支度をする、更衣室か支度部屋のようなところでしょうか。

「五人で小野道場の門人達との仕合に必ず勝つ」を目標に、猛稽古に取り組む五人には、一人道から外れてしまったかつて仲間・市之助がいました。

誰よりも我が強く少しでも早く剣士として認められたいと願う市之助は、中西道場に入門早々、忠太と指導法を巡って衝突し道場を去っていました。

己の道場と開いたばかりの忠太は、小野道場との仕合に向けて、弟子たちへの稽古法で悩んでいました。そんな忠太がある日出会ったのが……。

道場主の中西忠太の熱血指導ぶりと、血気盛んなやさぐれ弟子達の剣術に懸ける日々を描く剣術人情小説、ますます好調です。

胎動 熱血一刀流(二)

著者:岡本さとる
ハルキ文庫
2020年4月18日第一刷発行
文庫書き下ろし

装画:山本祥子
装幀:五十嵐徹(芦澤泰偉事務所)

●目次
第一話 ながぬま
第二話 仕合
第三話 胎動

本文271ページ

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『熱血一刀流(一)』(岡本さとる・ハルキ文庫)
『胎動 熱血一刀流(二)』(岡本さとる・ハルキ文庫)

岡本さとる|時代小説ガイド
岡本さとる|おかもとさとる|時代小説・作家・脚本家 1961年、大阪市生まれ。立命館大学卒業後、松竹入社。 2006年、新作歌舞伎脚本『浪華騒擾記』で第35回大谷竹次郎賞奨励賞を受賞。 その後フリーとなり、テレビ時代劇の脚本家、舞台...