長谷川平蔵の人足寄場再建のため、剣術大会を開催せよ

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『おれは一万石 尚武の志』|千野隆司|双葉文庫

おれは一万石 尚武の志千野隆司(ちのたかし)さんの文庫書き下ろし時代小説、『おれは一万石 尚武の志』(双葉文庫)をご恵贈いただきました。

本書は、崖っぷちの一万石小大名、下総高岡藩井上家に婿入りをした正紀の奮闘を描く、文庫書き下ろし時代小説「おれは一万石」シリーズの第19巻。

野分により設立間もない人足寄場が壊滅的な被害を受けた。幕閣の間ではこのまま廃止との声が上がるなか、反対の立場を取る尾張藩主徳川宗睦と大奥御年寄滝川の意を受けた正紀は、人足寄場再建に奔走する火盗改役の長谷川平蔵に力を貸すことに。立て直しの資金を捻出すべく、直参の子弟を集めた剣術大会を開催しようと目論むのだが。シリーズ第19弾!

(本書カバー裏の紹介文より)

寛政二年(1790)九月、江戸を襲った野分(台風)は大潮と重なり、江戸の町に大きな被害をもたらしました。
その年の二月に、老中首座松平定信が、改革の一つとして、御先手弓頭の長谷川平蔵に命じて石川島に建てた、無宿人の授産施設である人足寄場も、建物のあらかたが流され、人足に犠牲者も出ました。

「建て直したいと存じておりますが、なかなか」
 首を振った。
「金子ですな」
 常にそれで苦労している正紀だから、すぐに察せられた。今は無宿人百人ほどの規模だと聞いた。その建物の再建となれば、必要な金子は十両や二十両では済まないだろう。

(『おれは一万石 尚武の志』 P.20より)

野分の被害の状況を調べに町を探索していた正紀は、火付盗賊改役で、人足寄場掛でもあった長谷川平蔵の嫡子と偶然出会いました。

幕閣には、今回の被災を機に人足寄場を閉鎖して、かの地を他の用途で使ってはどうかという意見も出され、定信も新たにまた金子がかかることで廃止に傾いていました。

反定信派の尾張藩主尾張藩主徳川宗睦と大奥御年寄滝川は、定信への敵愾心から、長谷川に力を貸して人足寄場を再建することで、定信の面目を潰そうと企みました。

そして、二人が再建の手立てを考える人材として、白羽の矢を立てたのが、高岡藩井上家世子の正紀でした。

滝川から呼び出しを受けた正紀は、「人足寄場がなくならぬように、働いてもらえぬか」と依頼されました。

少なくと三百両はかかるといわれる復興資金集めに正紀は奔走することに。

廃止か存続か、その決定は年内に決まり、それまでに金策を済ませ、復興の目処をつけなくてはなりません。

「定信さまは、文武の奨励をなさった。ならば旗本御家人の子弟の剣術大会をなさればいい」
「触の意図に沿うにしても、賭けをさせて寺銭を集めるわけにはゆくまい」
 百両を稼げなければ、意味がない。
「いえ、賞金は町の大店老舗から集めます。百両の賞金を出したらいかがでしょうか」

(『おれは一万石 尚武の志』 P.26より)

金策に困った正紀は、正室の京に相談したところ、剣術大会を提案されますが、実行するとなると、超えなくてはならない問題が多くありますが、ほかに手立てがない以上、本気で検討することにしました……。

今回の読みどころの一つは、旗本御家人の剣術大会の試合にあります。大会を開催するまでの紆余曲折も面白く、その成果である、各流派を代表する腕自慢たちが剣の技を競う試合は、臨場感があって大いに楽しめました。

今回は、長谷川平蔵が石川島に建てた人足寄場が舞台となっています。
興味を持たれた方には、同じ著者による、長谷川平蔵の甥が活躍する、『長谷川平蔵人足寄場 平之助事件帖』シリーズもおすすめです。

おれは一万石 尚武の志

千野隆司
双葉社 双葉文庫
2021年12月19日第1刷発行

カバーデザイン:重原隆
カバーイラストレーション:松山ゆう

●目次
前章 大潮の後
第一章 滝川の命
第二章 徳川の臣
第三章 賞金集め
第四章 試合前日
第五章 負けた後

本文276ページ

文庫書き下ろし

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『おれは一万石 尚武の志』(千野隆司・双葉文庫)(第19作)
『おれは一万石』(千野隆司・双葉文庫)(第1作)
『長谷川平蔵人足寄場 平之助事件帖1 憧憬』(千野隆司・小学館文庫)

千野隆司|時代小説ガイド
千野隆司|ちのたかし|時代小説・作家1951年、東京生まれ。國學院大學文学部文学科卒、出版社勤務を経て作家デビュー。1990年、「夜の道行」で第12回小説推理新人賞受賞。2018年、「おれは一万石」シリーズと「長谷川平蔵人足寄場」シリーズで...