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床に伏す老武士が義息に秘技を伝授。今、読みたい剣豪小説

『あしでまとい 御城下の秘技』|井戸正善|アルファポリス文庫

あしでまとい 御城下の秘技井戸正善(いどまさよし)さんの長編時代小説、『あしでまとい 御城下の秘技』(アルファポリス文庫)を紹介します。

2021年、アルファポリス第7回歴史・時代小説大賞を受賞した「あしでまとい」を改題し、文庫として上梓した作品。
チャンバラ小説で、文学賞を受賞するのは何とも喜ばしいことで快挙です。

床に臥せる隠居武士、空閑政頼のもとに旧友が大金を手に老中藤岡伊織の暗殺を依頼しにきた。最初は断ろうとした政頼だったが、空閑家を継いだ義息子の陽一郎がその暗殺対象である藤岡の護衛に抜擢されたと聞き、考えが変わる。
陽一郎に遺す金を手に入れるために暗殺の依頼を成功させ、さらには護衛の陽一郎に手柄を立たせる。そんな無理難題をやり遂げるための策を講じた政頼は、陽一郎に自身が受け継いだ秘技『無明』を伝授することに決める。
――刃が自分に向くと覚悟して。

(『あしでまとい 御城下の秘技』カバー裏面の説明文より)

文化初年、九州の鵜嘉藩(うかはん。架空の小藩)が舞台。
鵜嘉藩は、御国替えで主が交代し、鵜嘉城の北と東は新たな街道や宿場町が作られ、藩主と共に入ってきた家臣団の家の普請が進んでいました。
一方、前藩主の家来だった者のうち、古い家来衆の家は南と西に並んでいました。

城の南に位置する下級藩士たちが住む長屋の一室で、病の床にあった空閑政頼を旧友鹿嶋弥太郎が訪れてきました。

かつては古岩井道場随一の剣士で、秘技の遣い手である政頼。
今は病み衰えた老躯で、娘婿のあしでまといになっていることが重荷となっています。
そんな政頼に弥太郎はある仕事を依頼します。

 びっしょりと汗をかいた鹿嶋の表情が物語る通り、尋常の話ではない。
「そんな顔をするな政頼。汚れ仕事には違いないが、藩の重鎮からの依頼であるし、金はちゃんと出る」
「お前が言うならそうなのだろう。だが、今のおれは老いて痩せた枯れ木も同然よ」
「それでも、あの技は使えるのだろう? なあに、藩の害となる男を一人始末するだけで良いのだ」
 殺しの話を軽々しく口にする友の姿に、政頼は些か驚いた。斯様な人物ではなかったはずなのだが、と。
 
(『あしでまとい 御城下の秘技』P.10より)

鹿嶋は、新しい藩主と共に来た老中の藤岡伊織を暗殺するように依頼し、藤岡はそのやり方が些か強引で、同じ藩の重鎮や新な藩主にあまり良く思われていないと言います。

「報酬は百両。これだけあれば、陽一郎どのに金を遺し、さらには迷惑をかけることなく自分の始末をつけられるのではないか?」
「嫌なことをはっきりと言いやがる」
 文句を言いながらも、図星ではあった。
 娘婿の陽一郎に家督を継がせたは良いものの、大した家格でもない貧乏藩士でしかない空閑家は、日々の暮らしで精一杯だ。

(『あしでまとい 御城下の秘技』P.11より)

返事は明日聞きに来ると言い残し、鹿嶋は証拠代わりに半金のさらに半分の切り餅(二十五両)を置いて辞去しました。

五年前に亡くなった娘小夜の婿で義理の息子陽一郎が城から帰ってきて、新たな役目を申しつけられたことを告げました。

老中の藤岡伊織の護衛を仰せつかり、明日より領内を見分するという藤岡に案内役をかねて同行すると。

政頼は奇妙な符合に絶句し、内心で運命を呪いながらも、ある決意を固めました。
そのうえで、切り餅の中から五両だけを取って、警護用に新しい刀を買ってくるように与えました。

「先代の道場主であったおれの師が、唯一おれだけに伝えてくれた技がある。泰平の世には必要のないものだから、誰にも伝えずにあの世へ抱えていくつもりでいたのだが……」
「義父上……」
「陽一郎。お前に伝授する。おれの最後の仕事だが、受け取ってくれるか」

(『あしでまとい 御城下の秘技』P.19より)

前金に手をつけた以上、藤岡斬りを請け負ったもの同然となり、藤岡を守護する陽一郎と対峙する判断をしました。
娘が遺してくれた“息子”に全てを伝え、老いさらばえた身体を義理の息子の手柄に差し出すのです。

これより、物語は俄然面白さのギアを上げていきます。
雌雄を決する来るべき日に向けて、病で衰えた身体に鞭を打つように、政頼は陽一郎の秘技を伝授していきます。

その一方で、義理の親子ながら、二人きりで食事を摂る、何気ない毎日の暮らしの営みが濃厚に描かれていて、しみじみと心に染み入ります。

政頼が受け継いだ秘技の中身は?
苛烈な運命に翻弄される政頼と陽一郎は
請け負った仕事を完遂できるのでしょうか?

剣と人情が堪能できる、本格的な剣豪小説の新星の登場です。

あしでまとい 御城下の秘技

井戸正善
アルファポリス・アルファポリス文庫
2022年10月30日初版発行
発売:星雲社

Illustration:浅野隆広
Design Work:AFTERGLOW

●目次
一、あしでまとい
二、剣友
三、昔馴染み
四、斬り合い
五、無明承伝
六、老中襲撃
終、仕儀相成り

本文331ページ

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『あしでまとい 御城下の秘技』(井戸正善・アルファポリス文庫)

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