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関ケ原の戦いに新解釈。西国無双と呼ばれた男の老境を描く

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『尚、赫々たれ 立花宗茂残照』|羽鳥好之|早川書房

尚、赫々たれ 立花宗茂残照羽鳥好之(はとりよしゆき)さんの長編歴史小説、『尚、赫々たれ 立花宗茂残照(なお、かくかくたれ たちばなむねしげざんしょう)』(早川書房)を紹介します。

プロフィールによると、著者は、文藝春秋に入社し、「オール讀物」編集長や文藝書籍部長、文藝局長などを歴任され、直木賞選考会の司会もつとめられた小説編集・制作畑のエキスパート。

本作の原型となる作品は、2021年の第13回日経小説大賞最終候補作(このときの大賞は夜弦雅也さんの『高望の大刀』)となり、大幅に改稿を経て、2022年文藝春秋退社後に、本書にて作家デビューされています。

神君家康がいかにして「関ケ原」を勝ち抜いたのか、考えを聞かせてほしい――
寛永八年、三代将軍家光に伺候した立花宗茂は、剣呑な諮問を受ける。その真意はどこにあるのか、新たな大名取り潰しの意図が潜んでいるのではないか、下命に強い不安を募らせる。答え如何によっては、家光の勘気に触れる恐れもあった。だが――先代秀忠の病いが篤くなり、親政に気持ちを昂ぶらせる家光が待つ御座の間で、宗茂はある決意をもって語り始める。やがて解き明かされる天下を分けた決戦の不可解さ、家康の深謀と西軍敗走の真相。勝敗の鍵を握った大名が召し出され、決戦前夜の深い闇がいま明らかになろうとしていた……
(『尚、赫々たれ 立花宗茂残照』カバー袖の説明文より)

寛永八年(1631)初冬十月。立花宗茂は、三代将軍徳川家光のもとに伺候し、家光から姉、天樹院を引き合わされます。
二代将軍秀忠と江の娘、千姫は、かつて豊臣家と徳川家の政略のもと秀頼に嫁ぎ、豊臣家滅亡後、伊勢桑名の大名本多忠刻に再嫁し、忠刻の死後、落飾して天寿院と名乗り、江戸に戻り竹橋御門内に屋敷地を与えられていました。

「柳川侍従、かしこまった挨拶はご無用に願いたい。前回からひと月、今宵が待ち遠しかった」

(略)

「老残の身には過分なるお言葉、私こそ、拝謁を楽しみに参上いたしました」
 家光が表情を崩した。気持ちが浮きたっているのが傍目にもはっきりとわかる。
「うむ。老侯、今宵はわが姉の同席を許してもらえまいか。娘が岡山の池田に嫁して、いまは竹橋御殿でひとり暮らしている」
  
(『尚、赫々たれ 立花宗茂残照』P.27より)

宗茂は天寿院が亡き妻誾千代を想起しました。
面差しもさることながら、挙措の一つひとつ、ことに背筋を伸ばしつつ相手の眼をのぞき込むように見つめる仕種はそっくりでした。

家光は生まれながらの将軍でしたが、鋭敏な精神にはそれがときに負い目とも感じられ、戦乱を勝ち抜き太平の世を開いた偉大な祖父家康に傾倒していました。

御伽衆の一人として大御所秀忠に仕えていた、宗茂は家光の心中の不安を感じ取り、その心を安んじてあげられないかと思っていました。

家光は、関ケ原とはどんな戦いだったのか、先に布陣を追えて絶対優位な西軍に対して、神君家康は天下を分けた決戦でどこに一番意を砕き、どう東軍勝利に導いたのかを、宗茂に問いました。

「老侯、あなたはもはや数少ない戦国生き残り、しかも、世に隠れなき名将である。太閤から西国無双と讃えられ、大坂の陣では、神君から将軍家の参謀役を命じられた」
 ここで家光が言葉を切った。その口調には「武人の世」に遅れた無念がにじむ。
「戦場を踏んだこともなく、神君からも大御所からも、親しく教えを受けることのなかった私に、それがどれほどの輝きをもつことかわかってほしい」
 戦国の生き残り、か。宗茂の心にまた「残躯」という言葉が去来する。

(『尚、赫々たれ 立花宗茂残照』P.32より)

慶長五年(1600)九月十五日、徳川家康率いる東軍九万、石田三成を盟主とする西軍八万が美濃国関ケ原で激突した天下分け目の戦い。

宗茂は西軍の一隊として近江大津城に猛攻を加えて、守将の京極高次に開城をさせ、大津城にて、次の西軍からの指示を待っていて、大事の関ケ原の戦いに参陣することができませんでした。

急遽、大坂に取って返し、西軍総帥毛利輝元に大坂城に籠っての徹底抗戦を唱えましたが、輝元にはもはや戦意はなく、宗茂は入城すらできずに大坂を退去し、柳川に帰ったのでした。

宗茂は、家光に自身が参戦できなかった関ケ原の戦いを語る前に、決戦に至るまでの世の中の動きを語り、続いて自身が目で見て耳で聞いた関ケ原を語りました。

「お教えくだされ。誰の、何を恐れ、そこから何を得られたのかを」
「我が恥を知りたいと申すか:
「曲げて、お願い申し上げます」

(『尚、赫々たれ 立花宗茂残照』P.15より)

物語では、立花宗茂ばかりでなく、西軍方として関ケ原に参陣し、その後長府毛利家の藩祖となり、将軍家御伽衆もつとめた毛利秀元が登場し、関ケ原の戦いについて語ります。

関ケ原の戦いの新解釈として興味深いものとなっています。

さて、本書では、関ケ原の戦いの真実に迫る「関ケ原の闇」のほか、天寿院と鎌倉の駆け込み寺・東慶寺を訪れることになった宗茂を描いた「鎌倉の雪」、関ケ原の戦い後に死の淵に進む宗茂に誠意をもって降伏を勧めた加藤清正家を襲った変事を描いた「江戸の火花」の中編3編を収録しています。

それぞれの話では、西国無双と呼ばれた男・宗茂の老境の輝きと矜持を鮮烈に描いています。

それは、長年、文芸の最前線に身を置いてきた著者自身の心境と、新たな挑戦への決意を投影しているようにも思えてなりません。
次にどんな作品を書かれるのかも気になっています。

※羽鳥好之さんの「羽」は、正しい表記では「羽」となります。

尚、赫々たれ 立花宗茂残照

羽鳥好之
早川書房
2022年10月25日発行

装幀:大原由衣
写真:Katsuaki Shoda/500px/Getty Images

●目次
第一章 関ケ原の闇
第二章 鎌倉の雪
第三章 江戸の火花

本文297ページ

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『尚、赫々たれ 立花宗茂残照』(羽鳥好之・早川書房)
『高望の大刀』(夜弦雅也・早川書房)

羽鳥好之|時代小説ガイド
羽鳥好之|はとりよしゆき(羽鳥好之)|時代小説・作家 1959年生まれ。群馬県前橋市出身。早稲田大学仏文科卒業。 2021年、本作の原型となる作品「尚、赫々たれ 立花宗茂残照」が第13回日経小説大賞最終候補作となり、大幅な改稿を経て、作家デ...