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戦前の中国大陸を駆け抜け、中国人に愛された日本人馬賊王

『小説 小日向白朗 熱河に駆ける蹄痕』|織江耕太郎|春陽堂書店

小説 小日向白朗 熱河に駆ける蹄痕織江耕太郎さんの長編歴史小説、『小説 小日向白朗 熱河に駆ける蹄痕(あしあと)』(春陽堂書店)を紹介します。

著者は、1950年福岡県生まれ。2003年、「星降夜(ほしふるよる)」で第1回北区内田康夫ミステリー文学賞を受賞しました。
著作には、戦後の高度経済成長期に日田で林業に懸けた男たちを描く、社会派ミステリー『百年の轍』などがあります。

本書で描く、小日向白朗(こひなたはくろう)は、新潟・三条生まれで、満洲の馬賊王となった実在の人物。捕虜から、正統派馬賊の総頭目にまで上り詰め、中国と日本のために命を懸けて戦った白朗の生涯を描いた歴史ロマンです。

十六歳で単身日本を脱出し、中国大陸にわたり満洲を目指した小日向白朗。誰かが通ったルートを辿るのではなく、未踏の地を歩くことを決意し、奉天で坂西利八郎閣下を紹介される。その後、白朗は「軍事探偵」の命を受け、意気揚々と北京を出発する。しかし、万里の長城を越え、シラムレン川に差し掛かったとき馬賊に急襲される! その馬賊とは、北京から北西四〇〇キロほどの下窪を本拠とする楊青山(ようせいざん)総攬把(ツオランパ)という男が率いる集団であった……。

(カバー帯の説明文より)

1916年12月、小日向白朗は、十六歳のとき日本を脱出し満州を目指し、陸軍の坂西利八郎閣下で紹介され、「軍事探偵」という役を与えられました。

意気揚々と北京を出発しますが、シラムレン川に差し掛かったときに、楊青山総攬把が率いる馬賊集団に襲われて、捕虜となってしまいました。

白朗は、襲撃計画があると聞き、楊青山に遊撃隊の一員として使ってくれ、必ず軍功を上げてみせると大見得を切り、その襲撃で軍功を上げ、馬賊として生きることになりました。

やがて、馬賊の総頭目にあたる総攬把の楊青山が流れ弾に当たり、突然亡くなりました。後継者は楊青山の一番弟子である張金山で決まりと思われていました。

「お前が、楊青山逝去のあとを継ぐ者に決まった。楊青山の業績に恥じぬよう心してみなを束ねよ」
 白朗はその場に腰を落とし、叩頭したあと言った。
「名も無き民のため、中国全土の安寧のために、命を懸けて働きます」

(『小説 小日向白朗 熱河に駆ける蹄痕』P.35より)

後継者を決める長老たちの協議で、二番手の白朗があとを継ぐことに決まりました。後継者として総攬把にせよ、と神の啓示があったと。

総攬把として、やるべきことが次々と浮かんできました。最初に、一揆を仕掛けて、賄賂の横行、裁判の不正、不当な税率、不当逮捕と過酷な拷問で腐りきった行政機構を正したいと。

雲啓や高文斌、徐春甫ら、馬賊の仲間たちとともに、腐敗した経棚県行政府を襲います。粘り強く平和的な交渉を行うはずでしたが、選民意識が強く、白朗らを匪賊扱いし、挙句に逃げ出そうとする県知事の首を斬ってしまい、行政府は修羅場となってしまいました。

白朗は自分の身体の中で燃え上がる、凶暴で非人間的な殺意の感情に驚き、気の昂りを抑えきれないまま、青龍刀を振り回して、何人もの首を斬り落としました。
そして白朗自身も飛んできた弾丸を右胸に受けて重体に……。

「私は、アジアの民です。そのアジア人がどうして、同胞である日本や中国を相手に戦うことができましょうか」
「裏切り者!」
 と道士たちの罵声が飛ぶ。老師は周囲の喧騒を抑えてから白朗に向き直って言った。
「旭東、お前が抗日軍の指揮を執ることは、蒋介石の命令でもなく、わしの命令でもない。すべては神の啓示、扶羅の神の言葉に現れたのだ」
 
(『小説 小日向白朗 熱河に駆ける蹄痕』P.120より)

やがて、白朗は日本人に毛嫌いされ、仲間の死の悲報を聞き、葛藤しながらも決断しました。抗日の義勇団の総司令となることに……。

中国東北部の守備を目的に、大陸での権益拡大のために裏工作や謀略を担った関東軍と、あるときは共闘し、またあるときは裏切られ対立していく、白朗率いる正統派馬賊。

若き白朗を主人公に、戦いあり、謀略あり、恋あり、友情ありの熱きエンタメ歴史小説。
日本人の枠にとらわれず、私利私欲のためでなく、中国の民衆のために戦う白朗に感動を覚えました。

本書は、大正から昭和の太平洋戦争直後までの30年余りの満洲、中国を舞台にしています。それは、日本が中国大陸に侵略を拡大していく激動の時期でもあります。

不勉強ながら、本書を読むまで、小日向白朗という人について、聞いたこともなく、その事績についてもまったく知りませんでした。

馬賊と聞いても、「はいからさんが通る」の鬼島軍曹のイメージぐらいしかなかったのですが、広く荒涼とした中国では、任侠精神を有して歴史的にも重要な役割を演じてきたことがわかりました。

蒋介石、張作霖、張学良、東条英機、川島芳子、児玉誉士夫、里見甫ら実在の人物たちが続々登場して、白朗と絡んでいき、戦争の時代に暗躍・跋扈していき、物語にリアリティを与え、盛り上げていく重要なピースとなっていきます。

この時代の歴史は、学校で習った記憶がなく、これまで関心を持たずに積極的に知識を求めてこなかったため、知らないことばかりで目から鱗が落ちる感じで、ページを繰るのが痛快でした。

昭和の戦前から戦中は、現代につながる近い歴史的過去であることに気づかされるとともに、これからの歴史小説の重要な時代となっていくことを予感させる一冊です。

小説 小日向白朗 熱河に駆ける蹄痕

織江耕太郎
春陽堂書店
2022年8月31日初版第1刷発行

装丁:平岡和之(ビーワークス)
本文デザイン:山揺詩羽

●目次
第一章 熱河 一九一七~一九三一年
第二章 華北 一九三一~一九四〇年
第三章 上海 一九四〇~一九五〇年

本文306ページ

書き下ろし

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『小説 小日向白朗 熱河に駆ける蹄痕』(織江耕太郎・春陽堂書店)

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