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明治の東海道を舞台に、命と金を懸けた、バトルロイヤル開幕

『イクサガミ 天』|今村翔吾|講談社文庫

イクサガミ 天今村翔吾のノンフィクション小説、『イクサガミ 天』(講談社文庫)を紹介します。

2022年1月の直木賞受賞後の著者の活躍をSNSで目にすることが多く、驚嘆を覚えます。
インタビューなど各種メディアへの登場ばかりか、注目の受賞後第1作どころか、「書店へ5・5キャンペーン」として、5月までに本書を含む5社から5作品も発表されます。しかも、受賞会見で「47都道府県をお礼に回る」と宣言したことを実行すべく、5月から100日間の車でのキャラバン旅を実施されるそうです。

小説を書いている今村翔吾さんと、メディアに登場すると今村翔吾さんが同一なのか、疑いたくなるぐらい(笑)です。

受賞後の第1作となる本書が単行本ではなく文庫で刊行というのも型破りで、著者らしいです。

明治十一年。大金を得る機会を与えるとの怪文書により、強者たちが京都の寺に集められた。始まったのは奇妙な「遊び」。配られた点数を奪い合い、東海道を辿って東京を目指せという。剣客・嵯峨愁二郎は十二歳の少女・双葉と道を進むも、強敵が次々現れ――。滅びゆく侍たちの死闘、開幕!

(『イクサガミ 天』カバー裏の紹介より)

明治十一年(1878)二月、「豊国新聞」という怪しげな新聞に、何とも胡乱な内容が書かれていました。

 ――武技ニ優レタル者。本年五月五日、午前零時。京都天龍寺境内ニ参集セヨ。金十万円ヲ得ル機会ヲ与フ。
(『イクサガミ 天』P.9より)

巡査の初任給が四円の時代。十万円は途方もない大金です。
五月五日午前零時、京都天龍寺境内に、怪文書に招き寄せられた強者らが参集しました。その数二百九十二人。
嵯峨愁二郎もその一人です。
幕末の剣客だった愁二郎は、東京に病の妻と子を残して、やってきました。

参集者は、自分の命を一枚の札にして賭けて、十万円を獲得するために、「こどく」という遊びに参加することになりました。

一、これから銘々に東京を目指す。

二、必ず天龍寺の総門、東海道伊勢国関、三河国池鯉鮒、遠江国浜松、駿河国島田、相模国箱根、武蔵国品川の七カ所を通ること。

三、それぞれ二、三、五、十、十五、二十、三十点なければ通過出来ない。

四、何人にも、このことを漏らしてはならない。

五、一月後の六月五日に東京にいなければならない。

六、途中での離脱を禁ずる。木札を首から外せば離脱とみなす。

七、以上を破りし時、相応の処罰を行う。
 
(『イクサガミ 天』P.25より)

恐ろしいルールのもとで、命を懸けたサバイバルゲームが始まりました。
愁二郎は、参加者の中に、場違いな十二歳の少女・双葉と出会います。
亀岡から来た双葉は、虎狼痢(コロリ)に罹った母を助けるために、大金が必要で天龍寺に来ていました。

「君の評判は耳にしています。代官の子息なのにまったく偉ぶったところがないそうですね。児島道場からの帰り道、老いた行商の老人のために道を譲り、時には彼らの荷を担いでやることさえあると聞きました。素晴らしい心がけです」
 吉輔は言う。

(『イクサガミ 天』P.52より)

元伊賀同心の柘植響陣、アイヌのカムイコチャ、元公家に仕える青侍の菊臣右京、乱斬り無骨の二つ名を持つ人斬り貫地谷無骨ら、強者たちが次々に愁二郎らの前に現れます。

そればかりか、愁二郎とともに育った京八流の遣い手である、祇園三助、化野四蔵、衣笠彩八らの弟妹も、この「こどく」に参戦していました。

強者どもが命を懸けた、東海道を舞台にした「こどく」の激闘を描く、エンタメ時代小説の始まりです。「天の巻」では、京都天龍寺から、尾張国宮までのバトルを描いています。
読みだしたら止められない、一気読み必至です。
大忙しの著者には、体調管理に気をつけていただたき、早く続きを読ませてください、と切に願っています。

イクサガミ 天

今村翔吾
講談社 講談社文庫
2022年2月15日第1刷発行

カバー装画:石田スイ
カバーデザイン:長崎綾(next door design)

●目次
序ノ章
壱ノ章 相克の幕開き
弐ノ章 懐疑の鎖
参ノ章 修羅の峠
肆ノ章 北の狩人
伍ノ章 同盟
陸ノ章 京八流
漆ノ章 水陣
捌ノ章 雑踏へ
玖ノ章 古の太刀

本文329ページ

初出:「小説現代」2022年1・2月合併号

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『イクサガミ 天』(今村翔吾・講談社文庫)

今村翔吾|時代小説ガイド
今村翔吾|いまむらしょうご|時代小説・作家 1984年京都府生まれ。ダンスインストラクター、作曲家、埋蔵文化財調査員を経て、作家に。 2016年、「蹴れ、彦五郎」で第19回伊豆文学賞最優秀賞受賞。 2016年、「狐の城」で第23回九...