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開国を実現させた、異能の伊豆韮山代官、江川太郎左衛門英龍

『英龍伝』|佐々木譲|毎日文庫

英龍伝佐々木譲(ささきじょう)さんの長編歴史時代小説、『英龍伝(えいりゅうでん)』(毎日文庫)を入手しました。

韮山反射炉が世界遺産に選出される前に、伊豆韮山にある、江川邸を訪れて以来、江川太郎左衛門英龍は、幕末で気になる人物の一人です。

尊皇攘夷運動をしていた人たちよりも、幕臣として、新時代を見据えて行動した人物に、心情的に惹かれているからかもしれませんが。

ペリーの開国要求に騒然となる幕府中枢。幕閣の議論もついに膠着した時、老中・阿部正弘が言った。「江川太郎左衛門を呼び出せ」。英龍ほどこの時を予見し、何をなすべきか備えていた幕臣はいなかった。一刻の猶予もないなか、あらゆる責務を任された英龍の才気がほとばしる。地元伊豆と民を愛し、デモクラシーを夢見た異能の行政官の一代記。
(カバー裏の内容紹介より)

江川太郎左衛門英龍は、享和元年(1801)に、伊豆韮山代官江川太郎左衛門英毅の子として生まれました。江川家は伊豆韮山の代官職を世襲し、当主は代々、太郎左衛門の名を引き継いでいました。

開国要求の大統領親書を幕府に受け取らせて、ペリー提督率いる四隻のアメリカ海軍太平洋艦隊が浦賀を出航したのは、嘉永六年(1853)六月十二日のこと。
翌年春に再来航し、国書への回答を受け取ると幕府に念を押したうえでの出航でした。

老中の阿部正弘は、「江川太郎左衛門を呼び出せ」と言い、勘定奉行の川路左衛門尉聖謨が出府を命じると応えました。

この日、英龍は、伊豆下田に、代官所手下の者、塾の門下生たち、地元の農民たちと武装して、江戸湾防備の任務に就いていました。

「ただちに出府されたしと、勘定奉行川路左衛門尉さまより命が届きました」
 その名が出ることは想像外ではなかったが、英龍は確かめた。
「川路殿から?」
「はい」
 川路は同い年で、幕府内の同志とも親友とも言ってよい男である。同時に勘定奉行といういまの彼の地位は、韮山代官の監督官という立場でもあった。
 翌十五日、英龍は家中の者と塾生たちをまとめ、韮山に帰った。
 韮山を発ったのは十六日、江戸に到着したのが十九日である。
 英龍にとって、みずからの知見と能力をあらためて公儀のために役立てるときがきたのだった。
 
(『英龍伝』P.11より)

英龍は、黒船来航を早くから予見し、海防と兵制について幕府に具申を重ね、自ら西洋砲術を学び、塾生を近代的な用兵術で訓練していました。

独自に反射炉を作り、台場築造も指揮し、幕府の開国を技術面から支えて、推進させた人物です。

どのような生涯を送ったのか、本書であらためて振り返りたいと思います。

国難に遭遇したとき、リーダーとしていかに判断するか、また、知見と能力を有する者は、時代を見据えて、「今、なすべきことをなす」ことを考えさせてくれる、一冊です。

重要文化財 江川邸
伊豆の国市韮山にある重要文化財・江川邸(江川家住宅)。江川家は42代900年続く大和源氏の末裔で、江戸時代には旗本として11代(273年間)天領伊豆の代官を務めました。36代江川太郎左衛門(英龍、号・坦庵)は、世界遺産となっている韮山反射炉やお台場の建設、日本初の洋式帆船建造や種痘などを行った名代官です。

毎日新聞出版の文庫レーベル、毎日文庫の本を買ったのは、これが初めて。
薄い青の表紙用紙を使用した、本のフォーマットが新鮮です。

英龍伝

著者:佐々木譲
毎日新聞出版 毎日文庫
2020年10月20日発行

装画:浅野隆広
カバーデザイン:大武尚貴

●目次
なし

解説 高橋敏夫

本文361ページ

単行本『英龍伝』(2018年1月、毎日新聞出版刊)を文庫化したもの。

■Amazon.co.jp
『英龍伝』(佐々木譲・毎日文庫)

佐々木譲|時代小説ガイド
佐々木譲|ささきじょう|作家 1950年、北海道生まれ。 1979年、『鉄騎兵、飛んだ』で第55回オール讀物新人賞を受賞しデビュー。 1990年、『エトロフ発緊急電』で第3回山本周五郎賞、第43回日本推理作家協会賞、第8回日本冒険小...