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妻子連れの美濃の食いつめ浪人、実は剣の達人、小此木善次郎

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『芋洗河岸(1) 陰流苗木』|佐伯泰英|光文社文庫

芋洗河岸(1) 陰流苗木文庫書下ろし時代小説が300冊を突破した、佐伯泰英さんの最新の文庫書下ろし時代小説、『芋洗河岸(1) 陰流苗木』が光文社文庫から出ました。

1999年、『密命 見参! 寒月霞斬り』(祥伝社文庫)を発表するや、たちまち時代小説ファンを熱狂させ、次々に発表される作品はベストセラーに。文庫書下ろしという出版スタイルにマッチして、一躍、文庫書下ろし時代小説の第一人者となった著者。

シリーズものがほとんどとはいえ、300冊を突破したというのは、凄いの一語。
佐伯さんのおかげで、文庫書下ろしが世に認知され、その後多くの作家が活躍できる場が生まれました。その功績は計り知れません。

神田明神下にある一口(いもあらい)長屋に、妻子連れの侍が流れ着く。藩を食いつめ美濃を出てきた、その名は小此木善次郎。職業なし、金もなし、どこかとぼけたこの侍、じつは剣の達人と知れる。
親切な住人や大家が揃う一口長屋に溶け込む一家だったが、長屋には隠された秘密があると知れ、善次郎はやがてその秘密と謎の渦に巻き込まれていく――。手に汗握る新シリーズ開幕!

(『芋洗河岸(1) 陰流苗木』カバー裏の紹介文より)

舞台は、江戸・神田明神下。
神田川を挟んだ向かいには、一口稲荷(太田姫稲荷)があり、一口坂(淡路坂)があることから、その長屋は一口長屋となったと。

文政九年(1826)の夏、大荷物を背負った武士と赤子を負った妻女が神田川沿いの淡路坂を見渡す昌平橋に姿を見せました。

偶然、御用帰りの義助と出会い、武士は一家で住むところがないかと尋ね、自身の身上と江戸にやってくるまでの話をしました。
この一家なら悪さなどには手を染めないと信用し、義助は自身が差配をつとめる一口長屋を紹介し、長屋に連れていき、その日から暮らすことに。

「それがし、小此木善次郎二十六歳、妻は佳世にござる」
 と名乗った。
 佳世が頭に被った手拭いを取り、丁寧に頭を下げた。疲れ切った表情は旅暮らしのせいだろう。妻女の佳世は最初、義助の眼には二十一、二に見えたが、手拭いの下から現れた整った顔立ちはさらに若く見えた。
 
(『芋洗河岸(1) 陰流苗木』 P.16より)

小此木善次郎(おこのぎぜんじろう)は元美濃国苗木藩の下級武士で、佳世との間に、赤子の芳之助がいました。苗木藩では、七石三人扶持の代官をつとめ、代々藩の剣術指南もかねていて、剣術は陰流苗木と称する在所剣術と夢想流抜刀術の指南を受け継いでいる、剣術の達人でした。
旅の途中で佳世が懐妊して、子を産まざるをえなくなった折りに、致し方なく道場破りをして、十両を稼いだと言います。

苗木藩は、現在の岐阜県中津川市に存在し、遠山友政を藩祖とする1万521石(後に1万21石)の譜代。苗木城を居城とし、最小の城持ちの藩です。

善次郎の七石三人扶持(一人扶持は一日五合の玄米が支給される)給与で、知行と合わせて年間で十二石超となりますが、それの半分を藩に召し上げられると、生活が立ち行かなくなるのは当然でしょう。

ともかく、江戸にやって来た善次郎は、義助から大家の米問屋越後屋嘉兵衛、大番頭の孫太夫を引き合わせられます。

嘉兵衛からは早速、店が抱えるある厄介ごとについて相談を受けます。
それは、一口長屋にもかかわることで、あらたに店子となった善次郎にとっても他人事では済まされないことでした。

 間合い半間(約〇・九メートル)で両人は向き合っていた。
 ふうっ
 と息を吐き合ったふたりが同時に仕掛けた。
 抜身と鞘に納まった刃渡り二尺三寸五分の刃がふたたび攻め合った。
 光の刃と先ほどまで鞘に納まっていた刃が絡み合った。
 
(『芋洗河岸(1) 陰流苗木』 P.263より)

シリーズ第1巻ということもあって、本書では、善次郎が剣の稽古のために通うことになる、幽霊坂の神道流青柳道場の道場主青柳七兵衛と筆頭師範代の財津惣右衛門、神田明神下で賭場を開く野分の文太とその用心棒のまむしの源三郎ら、登場人物たちが要領よく紹介されていき、物語にスッと入りこめます。

欲が少なくてどこか飄々としたところがある善次郎がひとたび剣を抜くと、とてつもないことが起こります。
痛快無比な読み味が快い佐伯ワールドが堪能できます。

本シリーズは、1月から3カ月連続刊行され、全3巻で完結予定とのこと。
今後、一口長屋にどのような危難が訪れて、それを善次郎が得意の剣でどのように落着させるのか、今から楽しみでなりません。

芋洗河岸(1) 陰流苗木

佐伯泰英
KADOKAWA 光文社文庫
2024年1月20日初版1刷発行

カバーデザイン:高林昭太

●目次
序章
第一章 長屋の新入り
第二章 道場通い
第三章 取り立て稼業
第四章 一口長屋の秘密
第五章 仇敵現る

本文325ページ

文庫書き下ろし

■今回取り上げた本

佐伯泰英|時代小説ガイド
佐伯泰英|さえきやすひで|時代小説・作家 1942年、福岡県北九州市生まれ。日本大学芸術学部映画学科卒業。 1981年、ノンフィクション『闘牛士エル・コルドベス 1969年の叛乱』で、第1回プレイボーイドキュメントファイル大賞受賞。 199...