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又十郎、非情な密命を果たして、妻と再会し故郷に帰れるのか

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『脱藩さむらい 切り花』

脱藩さむらい 切り花金子成人(かねこなりと)さんの文庫書き下ろし時代小説、『脱藩さむらい 切り花』(小学館文庫)を入手しました。

本書は、密命を帯びて、愛妻と別れて江戸で暮らしている、脱藩侍、香坂又十郎の日々を描いた文庫書き下ろしシリーズの第4作にして、最終巻となります。

石見国浜岡藩の藩士・香坂又十郎の平穏な暮らしは、一つの藩命によって一変した。「謀反を企み脱藩した義弟を斬れ」。藩命に抗えず、江戸で義弟・数馬を上意討ちにした又十郎だったが、帰郷はかなわず、江戸の目付・嶋尾久作から非情な汚れ仕事を押し付けられてしまう。妻・万寿栄に会いたいと切望する又十郎に藩御用達の廻船問屋「備中屋」の作右衛門が「嶋尾久作を斬ってほしい」と願い出る。依頼は、幕府に密貿易の疑いをかけられた浜岡藩内の権力闘争が関係していた、又十郎最後の戦いが始まる。大河時代小説感涙の最終巻!
(本書カバー裏の説明文より)

天保六年(1835)八月。
江戸で義弟・兵藤数馬を上意討ちした後も、又十郎は、帰郷がかなわず、浜岡藩江戸屋敷の目付・嶋尾久作の指示どおりに、藩政に異を唱える家臣の抹殺などの汚れ仕事を続けるように強いられていました。

ある日、嶋尾から又十郎に急な呼び出しがかかり、妻の万寿栄が江戸のやってきていることを知らされます。是非にも会わせてほしいと願い出ますが、「今はならん」と断られました。

傲岸不遜に、又十郎の心を弄ぶような嶋尾ですが、その日は、いつもと違う面も見せました。

「ここにきて、どうも落ち着かねぇのよ」
 嶋尾はそういうと、小さく、ふふと笑って横顔を見せた。
「浜岡藩の置かれた状況にしても、どうも思わしくねぇ。細かいことは言わねぇが、目に見えない、なんというか、海のうねりのような大きな塊というか、大口を開けた怨霊や妖怪の口から吐き出された悪気の塊のようなもんが、じわじわとこちらに向かって来るような気配がして、不気味でならねぇ」
 口とは裏腹に、嶋尾の声音には、不安を感じさせるものは微塵も窺えない。
 
(『脱藩さむらい 切り花』P.24より)

老中の水野越前守が、佐渡奉行や新潟奉行を通じて、日本海での抜け荷や禁制品の摘発に、躍起になっていました。嶋尾は、浜岡藩に迫る抜け荷の疑惑や改革派の存在に不気味さを感じるようになっていました……。

藩内抗争が激化していくなかで、又十郎は愛妻・万寿栄と再会することはできるのか、そして、故郷の浜岡に帰れる日は来るのか、物語の結末が気になります。

孤独な江戸での生活の中で、又十郎は長屋も住人たちなど市井の人々との付き合い、日々の営みに、人情の機微に触れ、癒されます。

脱藩さむらい 切り花

金子成人
小学館 小学館文庫
2020年6月10日初版第1刷発行
文庫書き下ろし

カバーイラスト:西のぼる
カバーデザイン:山田満明

●目次
第一話 暗殺
第二話 再会
第三話 炎上
第四話 帰国

本文278ページ

■Amazon.co.jp
『脱藩さむらい』(金子成人・小学館文庫)(第1作)
『脱藩さむらい 蜜柑の櫛』(金子成人・小学館文庫)(第2作)
『脱藩さむらい 抜け文』(金子成人・小学館文庫)(第3作)
『脱藩さむらい 切り花』(金子成人・小学館文庫)(第4作)

金子成人|時代小説ガイド
金子成人|かねこなりと|時代小説・作家 1949年、長崎県生まれ。脚本家。 1997年、第16回向田邦子賞を受賞。 2014年、『付添い屋・六平太 龍の巻 留め女』で、時代小説デビュー。 ■時代小説SHOW 投稿記事 八丈島から島抜け。兄を...