人形佐七だけじゃない、横溝正史さんの懐かしの捕物帳

朝顔金太捕物帳名探偵金田一耕助シリーズでおなじみの、横溝正史(よこみぞせいし)さんの捕物小説、『朝顔金太捕物帳』(捕物出版)をオンデマンド本で入手しました。

横溝さんの捕物小説といえば代表作の「人形佐七捕物帳」が頭に浮かびますが、浅学ゆえに本シリーズのことは全く知りませんでした。

5大捕物帳の一つ、人形佐七捕物帳の著者の横溝正史氏は、「佐七」以外にも多くの捕物小説を残している。
太平洋戦争末期の昭和19年より14編が執筆された朝顔金太捕物帳は、これまで数編が単行本に収録されたが、全編をまとめた本は70余年間刊行されてこなかった。
本書は、謎のかぞえ唄、相撲の仇討、通し矢秘文、黄昏長屋、消える虚無僧、珠数を追う影、狐医者、からくり駕、腰元忠義、影右衛門、お時計献上、お高祖頭巾、雪の夜話、孟宗竹の、朝顔金太捕物帳全14編を、初出誌の中一弥、渡部菊二氏の挿絵入りで完全収録。横溝正史研究家の浜田知明氏による解説付き。
人形佐七とは一味異なる著者の捕物小説の魅力をお楽しみください。
(Amazonの紹介文より)

本書の主人公は、駒形の捕物名人だった朝顔弥兵衛の一人息子の金太です。「朝顔」は住まいの近くの朝顔新道から取られたとのこと。

物語の中で去年(第一話「謎のかぞえ唄」に描かれている時代は天保十三年)、弥兵衛が身まかり、跡を継いだがパッとせず、朝顔一家は不評判で乾分が一人去り二人去りで、今では火吹竹と呼ばれる乾分(こぶん)の竹蔵が落ち目の一家に最後まで踏みとどまって、金太を盛り立てています。
また、手柄を競うライバルの岡っ引として、本所の茂平次、一名へのへの茂平次が登場し、物語をかき回します。(天保の改革の中心人物の一人、鳥居耀蔵の家臣・本庄茂平次を想起させるネーミングで、ニヤリとさせられます)

 一体金太は、岡っ引としてずば抜けた才智があるわけでもなく、特に鋭い感を備えているわけでもないが、ただ骨惜しみせずよく動くのと、身についた愛嬌がとくで、つい人の口が割れやすく、そんなことから思わぬ聞込みも出来るとうわけだ。
(『朝顔金太捕物帳』「黄昏長屋」P.69より)

この捕物帳は、太平洋戦争真っ只中の昭和十九年から昭和二十年に、講談雑誌に発表されたことから、スピード感のあるストーリー展開で、明朗な主人公による人情味豊かな捕物譚となっています。

横溝正史研究家の浜田知明さんによる解説が充実していて一読に値します。「探偵小説の間口がまだ狭かった時代において、捕物帳んら絶え間なく執筆を続けられ、安定した収入が得られるだろうから」という執筆の背景や「人形佐七捕物帳」との関連など、興味深い話が紹介されています。

また、本書では挿絵画家・中一弥さんの挿絵を完全収録し、物語の世界観とマッチしていて何とも楽しいです。「剣客商売」の表紙装画や「鬼平犯科帳」の雑誌発表時の挿絵でおなじみの中さんの若い頃の絵に触れられる貴重な機会でした。

「相撲の仇討」では、中さんの息子・逢坂剛さんの『重蔵始末』の第1話「赤い鞭」の相撲場面を思い出しました。

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『朝顔金太捕物帳』オンデマンド本(横溝正史・捕物出版)