今年文庫で読んだ一番面白い剣豪小説

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北方謙三さんの『鬼哭の剣』を読み終えた。剣豪小説の中で折り紙付きの面白さをもつ「日向景一郎シリーズ」の中でも、今回の作品は最高傑作ではないだろうか。

日向森之助は、江戸湯島の薬種問屋杉屋清六の使いで薬剤師菱田多三郎が滞在する糸魚川を単身訪れる。そこで、海女のお鉄と盗賊の小平太、不思議な老婆のおたつらと知り合う。海草から新しい薬を作ることに執念を燃やす多三郎の命で、森之助はお鉄と一緒に海草を採るために素潜りに挑戦することに……。

児玉清さんが、巻末の解説で、子どものころに本を読む楽しさを教えてくれた剣豪物語の魅力、面白さの正体を箇条書きにされていた。とても参考になったので、引用したい。

……

(1)誰もが苦難と困難を乗り越え、創意工夫を凝らして独自のユニークな新剣法を編み出すプロセスの類稀なる面白さ。

(2)逆境を懸命に生き抜く、勇気と努力、そして辛抱と我慢に感動。

(3)世の中には必ず人を陥れる悪い奴がいることを教えてくれた。

(4)生きて行く上でいかに智恵が大切であるかを知らぬ間に教えてくれた。

(5)広い世界には必ず上には上があるのだぞ、ということ。

(6)剣豪は誰もが、強さが故に孤独を強いられるということ。

(7)一つの道を極めることの栄光と悲惨。

(『鬼哭の剣』P,501より)

注:数字は、原文では○囲みのところ、機種依存文字のため( )に変えた。また、改行を加えた。(by 理流)

『鬼哭の剣』では、日向景一郎が剣士として完成されていることもあり、その弟で十五歳の森之助の成長に焦点を当てることで、児玉理論の(1)と(5)を描いている。森之助の男として初体験も描かれる。

また物語には、角兵衛獅子の話が出てくる。角兵衛獅子とは、全国各地を回って門付けし、獅子舞・軽業を見せた。月潟村(西蒲原郡月潟村は、2005年3月21日廃止され、新潟市に編入された)から来たという口上ではじまるので、「越後獅子」「蒲原獅子」ともいう。角兵衛獅子が出てくる小説というと、やはり大佛次郎さんの『鞍馬天狗』が挙げられる。

角兵衛獅子

この角兵衛獅子を間諜として養成し、全国に派遣しているという秘事をめぐって、日向兄弟の前に、強敵柳生が出現し、物語のボルテージは一気に高まっていく。とてつもなく強い相手によって、森之助の剣も急激に向上していく。あとは読んでのお楽しみ。