『政変問答 うつけ屋敷の旗本大家(四)』|井原忠政|幻冬舎時代小説文庫
井原忠政(いはら・ただまさ)さんの痛快時代小説、『政変問答 うつけ屋敷の旗本大家(四)』(幻冬舎時代小説文庫)を紹介します。
五百石の旗本家の当主・大矢小太郎は、恋には奥手で真面目な性格です。金と女と博打に目がなく、それでいて若い女性にもてる隠居の父・官兵衛とは、まったく対照的な人物です。無役でありながら、父が残した千四百両の借財を背負い、駿河台の屋敷の敷地内に建てた六軒の貸家の大家も務める、いわば「旗本大家」です。
あらすじ
お役目を賜り、婚約も整い、大矢小太郎は人生の絶頂期を迎えていました。ところがある日、勤務中に刃傷沙汰が発生し、水戸藩主・斉昭公を救ったことから、幕政の争いに巻き込まれてしまいます。さらには、義父(予定)である老中・豊後守にまで魔の手が及びます。しかも、黒幕は大矢邸の住人であることが判明し……? 国家の危機と恋路の転覆を阻止できるのか――。痛快時代小説、注目の第二シーズンの幕開けです。
(『政変問答 うつけ屋敷の旗本大家(四)』カバー裏の内容紹介より)
ここに注目!
シリーズ第1巻から第3巻までは、大矢家の父と子の奇妙な関係や、ひと癖もふた癖もある貸家の住人たちとの騒動を描いてきました。その抱腹絶倒のハチャメチャぶりは、一度読んだら癖になる面白さです。
本作は、天保十四年(1843)四月から始まります。
大矢小太郎は、鉄砲同心の娘・佳乃と婚約し、さらに佳乃の実父である筆頭老中・本多豊後守の推挙により、書院番士に任じられ、江戸城本丸御殿に登城することになります。まさに人生の絶頂といえる状況です。
しかし、登城早々、茶坊主から先達への進物を勧められ、金がなければ融資もすると言われます。その理不尽さに抗した小太郎は、弁当に火鉢の灰を振りかけられたり、太刀の柄に小便をかけられたりと、嫌がらせを受けるようになります。
そんなある日、本丸御殿内で刃傷沙汰に遭遇し、水戸藩主・徳川斉昭を救ったことから、事態は一編。小太郎は、幕政に巻き込まれていきます。
天保十三年、清国がアヘン戦争でイギリスに敗れ、南京条約を結びました。香港を割譲し、五港を開港、関税自主権を失い、領事裁判権を承認するという不平等条約です。その影響で、日本近海にも異国船が次々と現れ、国防や海防が大きな課題となっていました。
斉昭と豊後守は、この国難に対して起死回生の策を講じようとしますが、それが幕府を二分する非常事態へと発展していきます。
これまでの巻では大矢家の「内憂」に焦点を当てていましたが、本作からは小太郎が幕政に巻き込まれることで、幕政の「外患」までもが描かれ、物語のスケールが一気に広がりました。しかも、大矢家の中では「内憂外患」が発生し……。
文庫書き下ろしの時代小説でありながら、実際に起きた事件や実在の人物を巧みに取り入れている点も、本作の大きな魅力です。
本作は、物語の大きな転換点を迎える第2シーズンの幕開けでもあります。幕末へと向かう時代のうねりの中で、小太郎とうつけ屋敷の住人たちがどのような活躍を見せてくれるのか、今後ますます目が離せません。
書籍情報
