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若手女子編集者がタイムスリップして、江戸でベストセラー

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『大江戸恋情本繁昌記 天の地本』|ゆうきりん|集英社オレンジ文庫

大江戸恋情本繁昌記 天の地本異世界ものにはまだ馴染めていませんが、最近、過去の時代にタイムスリップする、時代SF(現代と過去の時代が描かれていて、主人公が何らかの装置や現象などによって時代移行をするので時代SFということがあります)が気になっています。

時代SFの代表的な作品と言えば、山本巧次さんの『大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう』(宝島社文庫)が挙げら荒れます。

ゆうきりんさんの『大江戸恋情本繁昌記 天の地本』(集英社オレンジ文庫)は、現代の若手女子編集者が江戸時代に行ってしまうという設定で、時代SF小説の一つと言えます。

第19回コバルト・ノベル大賞を受賞し、長年、ライトノベルで活躍している著者。ライトノベルのレーベル「集英社オレンジ文庫」からの出版ということで新刊時に見落としていましたが、朝日新聞に掲載された谷津矢車さんの記事に教えていただいた作品です。

エンタメ小説の若手編集女子、小桜天(こざくらそら)は浅草で打ち合わせの帰り、大御所作家と鉢合わせてトラブルとなり、もみ合う内にトラックに轢かれてしまう。。だが目覚めると、そこは病院ではなく、江戸時代!? 謎の侍に拾われ、三味線の女師匠に世話になる天だったが、生きるため、この時代でも本を作ることにする。果たして、現代の知恵で江戸の人々にも売れる本を作れるのか?

(『大江戸恋情本繁昌記 天の地本』カバー裏の紹介文より)

文政十一年(1828)晩夏の夜。
突如、天がカッと白く輝き、雲もないのに凄まじい雷鳴がとどろきました。雷光が消えると、先ほどまで誰もいなかった浅草寺に近い表通りの真ん中に、奇妙な姿の女が一人座り込んでいました。

女は、小桜天(こざくらそら)という名前。現代、令和の時代に、もみ合った末に車道に倒れたところへ走ってきた大型トラックに轢かれたはずで、どうして江戸で無事でいるのかはわかりません。

「おめえ、だ、誰だ!」
 どこからか声が飛んできて、天は飛び上がりそうになった。
「何者だ! お、おかしな形しやがって!」
 首を巡らせて声の出所を探すと、通りを仕切る塀の影から月の下に男が現れた。

(『大江戸恋情本繁昌記 天の地本』 P.11より)

天の前に現れたのは、時代劇の捕物でおなじみの道具、刺股を手にした老爺でした。
あわや老爺に捕まるところ、二人目の男が現れます。

着物姿の男は、老爺から「遠野の旦那」と呼ばれ、すらりと背が高く、肩はがっちりと広く、総髪の髷を結っていて、腰には刀を差していました。歳の頃は三十半ばくらいで、左手に提灯、右手に大きな徳利を提げていました。

捕まえて御上に知らせようという老爺に、遠野は自分に任せるようにと言います。

「見たところ、こいつは狐狸、妖の類だ。ひょっとしたら天狗かもしれぬ。御上に届けたところで、連中がおっとり駆けつける頃には、どろんと消えちまうさ。そうなったら爺さん。手を煩わせたかどで、あんたがねっちりと詰められるぜ? そればかりじゃない。こいつに祟られるかも」
「げえ!」
 天からすれば子供だましとしか思えない脅し文句に、老爺は本気で震え上がった。
「祟りなんか冗談じゃねえ! 任せます、お任せいたします!」
「それがいい。ほら、これでも呑んで忘れちまいな」

(『大江戸恋情本繁昌記 天の地本』 P.14より)

遠野は持っていた大きな徳利を老爺に渡し、天に「ついておいで」と言いました。

「すまんな。さっき雷門の前で天狗の娘を拾ったんだが、俺の家に連れ帰るわけにもいかぬ。面倒を見てやってくれまいか?」
「またですか? 犬猫みたいに言わないでくださいよ。うちは口入屋じゃないんですよ? この前だって――」
「わかってるわかってる。また、三毛屋の饅頭を買ってくるから」
「……仕方ないですね」

(『大江戸恋情本繁昌記 天の地本』 P.18より)

遠野は、行く宛のない天を、小梅町に住む三味線を教えるおふゆに預けました。

こうして、江戸で、天はおふゆの家で暮らすことになりました。

本書の面白さは、天が令和の時代に、神保町にある中堅出版社の文芸部で働く、若手編集者であるという設定にあります。しかも、一般小説とライトノベルの中間にあるライト文芸を担当しています。

浅草を訪れた理由も、時代小説を得意とする小説家の溝口是鬼と打ち合わせをするためでした。打ち合わせの後、会社との間でトラブルを起こしている別の小説家と出会ってしまい、もみ合っているうちに車道に倒れてしまい、気が付くと夜の江戸の町にいたのでした。

タイムスリップものでは、移動前と移動後、二つの時代の対比がどのように描かれているか、そして、主人公がそのギャップをどのように乗り越えていくかが大きな読みどころになっています。

そして、天は、江戸でも本をつくり、編集の仕事をすることになります。

どんな本を作るのでしょうか?
天の作る本は江戸の人たちに売れるのでしょうか?
そして、そんな天を助ける、謎の男、遠野は何者なのでしょうか?

現代の編集の知識を生かしながら、江戸で売れる本(ベストセラー)をつくっていこうとする、バイタリティ豊かな天の姿に勇気がもらえる、痛快な時代小説です。

最近、ライトノベル作家が時代小説を書かれるケースが増えてきて、時代小説に新しい風を入れ、新しい読者を連れてきてくれています。

今日もまた、素敵な時代小説に出合えました。
続きが読みたくなる時代小説です。

大江戸恋情本繁昌記 天の地本

ゆうきりん
集英社 集英社オレンジ文庫
2024年3月23日第1刷発行

カバーイラスト:AiLeeN
カバーデザイン:関静香(woody)

●目次
第壱話 雷門天狗娘
第弐話 江戸の書店
第参話 蟷螂同心、山上弥一郎
第四話 新たな主
第伍話 女北斎
第六話 草紙狂騒
第七話 恋情本『転生御七振袖纏』

本文267ページ

書き下ろし

■今回紹介した本


ゆうきりん|時代小説ガイド
ゆうきりん|ゆうきりん|小説家 東京都生まれ。神奈川工科大学卒業。 1992年「夜の家の魔女」で第19回コバルト・ノベル大賞を受賞。 時代小説SHOW 投稿記事 著者のホームページ・SNS ゆうきりん(@rrin_yuuki) | X →ゆ...