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白虎隊の生き残りがインディアンとともに戦う、西部劇小説

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『虎と兎』|吉川永青|朝日新聞出版

虎と兎幼い子どもの頃、ウエスタン(西部劇)をテレビや映画でたくさん見ました。しかし、最近、西部劇映画を見たという記憶がありません。胸躍るような、魅力的な西部劇が作られなくなったように思います。

『虎と兎』(朝日新聞出版)は、会津出身の武士が西部開拓時代のアメリカに渡って活躍するサムライ西部劇アクション小説です。

歴史の敗者に光を当てる小説を数多く描いてきた、吉川永青(よしかわながはる)さんがが初めて描いた。アメリカ史の闇、インディアン戦争に挑みます。

本書を読むと、やっぱり西部劇小説ってワクワクさせていいなあと思うとともに、なぜ、最近、西部劇が作られなくなったのか、その理由もわかるような気がしてきました。

幕末。会津白虎隊でただひとり生き残った少年・三村虎太郎は維新後、新政府のもとで生きることを拒み、新天地アメリカへの移民へ参加した。異国での過酷な暮らしが続く中、ある日、寅太郎は行き倒れているシャイアン族の少女を助ける。一族を虐殺されひとり生き残った少女はカスター将軍の“ある秘密”を握っているため追われているという。似た運命を背負ったふたりは、時に反発し、時に支えあいながら、暴虐非道の第7騎兵隊へと立ち向かうこととなるが――。

(『虎と兎』カバー裏の説明文より)

慶応四年(1868)八月、会津・飯盛山。
十五歳で下士の三村虎太郎は、正規の白虎隊(士中二番隊)の隊士でなかったが、潜り込んで同志として認められていました。そして、戸ノ口原の戦いで敗北し、城に戻ろうとして城下を囲む官軍に捕らわれて生き恥を晒すよりは、自ら命を絶ち、武士の本分を明らかにすべしと、皆で自刃することになりました。

「何て言うのか、おまえの方が天に気に入られている。俺はそう思う」
 人というのは公平にできていない。生まれながらに天分の違いがあり、力量に差がある。永瀬はそう言って、青ざめたままの顔に眩しげなものを見せた。
「生き残れば、きっと何かできる。やるべきことがある奴なんだ、おまえは。だから」
 穏やかな微笑をひとつ。両肩に置かれた手に、ぐっと力が込められた。
「運が、あるといいな」
 言うが早いか、永瀬は虎太郎の両肩を思い切り突き飛ばした。

(『虎と兎』P.8より)

虎太郎は幼い頃から上士と下士の垣根を越えて昵懇にしていた朋友で、一つ年上の白虎隊の永瀬雄次におまえには生きて成すべきことがあると諭され、崖から突き落とされました。

虎太郎は、右腕と左脛の骨を折って動けないところを猟師の甚助に助けられ、骨接ぎの手当を受けました。怪我を治している間に、慶応から明治に改元され、会津藩は官軍に降伏していました。

三か月が経ち、どうにか元通りに動けるようになった虎太郎は、無残に焼けてしまった若松の町で、下士の娘で幼友達のおけいと再会しました。おけいは武器商人のスネルの後妻になっていました。そして、スネルの付添役を務めている元会津藩士の西川からアメリカへの移民を募っている話を聞きました。

英語がわからず、異国へ渡ることに拭い去れない不安を感じる一方で、新政府の下で生きることを潔しとしないで、未知の可能性に賭けてみようと思い、「アメリカに連れて行ってください」とスネルに願い出ました。

明治二年(1869)五月、スネル夫妻と西川、虎太郎はアメリカ西海岸のカリフォルニア州コロマという小さな町の近くに農園を買い取って暮らし始めました。日本からの第一陣の移民を受け入れた農園は「ワカマツ・コロニー」と名づけられました。

半年余りが経ったある日、虎太郎は、魚捕りに出かけた川の近くの森で、行き倒れのインディアンの少女を助けました。少女は、シャイアン族で同族で兎の意味をもつ、ルルという名で十一歳だと。

ルルの部族は、昨年十一月末に、カスター中佐が率いるアメリカ陸軍第七騎兵隊に襲撃されて、ほとんどが虐殺されたと言います。そして、カスター中佐を秘密を握ったルルは、中佐にしつこく追われているとも。

コロニーに、カスター中佐の依頼を受けたピンカートン探偵社のチーフ・エージェントのエリック・マッケンジーが現れて、ルルを引き渡しを求めてきました。何とかエリックを追い払ったものの、このままではコロニーに迷惑が。
ルルはシャイアン族に戻ることになり、虎太郎はルルを送り届けると宣言しました。

「何考えてんだ! だめ! これ以上あんたを巻き込むなんて」
 ルルが血相を変え、虎太郎の左腕を取る。しかし、その裏に隠れたものがあった。嬉しい、ありがたい、心強い。その気持である。押し殺すことはないのだと、虎太郎は娘の両肩に手を置いた。
「おまえは……って言うより、先住民は俺と似ている。他人ごとには思えないんだよ」
 官軍の我欲と横暴が会津を押し潰した。自分の味わった苦悩と理不尽を、アメリカは今、多くの先住民に与えている。暴虐を働いている。そんなことが許されて良いのか。思うからこそルルを支えたい。少しでも力になりたいと、切に願う。

(『虎と兎』P.93より)

かくして、虎太郎とルルの決死の冒険の旅が始まります。

少年が少女に出会って、そこから関係を育んでいくという「ボーイ・ミーツ・ガール」のパターンを取りながらも、二人の関係性は恋愛というよりは運命共同体のバディという間柄になっていくところに面白さを感じます。
命を懸けた極限の逃走劇を通じて、二人は図らずも成長していき、青春小説としても楽しく読むことができるのです。

太子流の剣術と会津藩の門外不出の柔術である「御式内(おしきない)」の遣い手である虎太郎が、西部のガンマンたちに立ち向かっていく迫真のアクションシーンでは、スリルと痛快さに興奮を覚えます。

カスター中佐やピンカートン探偵社だけなく、ビリー・ザ・キッドやスー族のクレージー・ホースなど西部劇のヒーロー/アンチヒーローたちも登場し、物語にリアリティを与えるとともに、西部開拓時代のアメリカの姿を投影する歴史時代小説となっています。

今や貴重となった、サムライ・ウエスタン(西部劇)小説の形を取っていますが、さまざまな魅力に満ちた良質の歴史エンターテインメントとなっています。

西部開拓の歴史の真実が明らかになっていくとともに、かつての先住民が悪で、征服する側の白人が善という一方的な構図は成り立たなくなっています。
多様性を認める時代になり、白人至上主義による開拓時代の不都合な事実が明らかになるにしたがって、とくに1970年代以降、古い価値観による勧善懲悪の西部劇がスクリーンから消えていったのではないかと思い至りました。

本書では、ネイティブ・アメリカン(先住民)側から視点からインディアン戦争を描き、アメリカの闇を鋭く炙り出しています。さらに、そこに戊辰戦争で敗者となった会津の少年が加わ久ることで、化学反応を起こし、胸躍る冒険活劇となっています。

西部劇小説は読んだことがなくて、とっつきにくいと思われる方もいるかもしれません。そんな懸念はご無用です。
日本人の若き少年武士が券を武器に、インディアンの少女を助けて、冒険の旅を続ける物語として、文句なく楽しめる時代小説になっています。

岩本ゼロゴさんの表紙装画が超絶かっこよく、物語の世界観を伝えてくれています。表4側には敵の姿も描かれているの、本書を手に取る機会がありましたら、ぜひ、裏面もご覧ください。

虎と兎

吉川永青
朝日新聞出版
2024年3月30日第1刷発行

装画:岩本ゼロゴ
装丁:ジュン・キドコロ・デザイン

●目次
一 白虎の魂
二 シャイアンの娘
三 旅立ち
四 モドック戦争
五 ウィリアム・ボニー
六 アドビ・ウォールズ
七 聖地バハサバ
八 リトル・ビッグ・ホーン川の決戦
エピローグ 人と人

本文317ページ

書き下ろし。

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『虎と兎』(吉川永青・朝日新聞出版)

吉川永青|時代小説ガイド
吉川永青|よしかわながはる|時代小説・作家 1968年、東京都生まれ。横浜国立大学経営学部卒業。 2010年、「我が糸は誰を操る」で第5回小説現代長編新人賞奨励賞を受賞。 2012年、『戯史三國志 我が槍は覇道の翼』で第33回吉川英治文学賞...