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仲間の戯作者コキリが失踪!行方を捜索する編み物ざむらい

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『編み物ざむらい(二) 一つ目小僧騒動』|横山起也|角川文庫

編み物ざむらい(二) 一つ目小僧騒動毎年、この時期になると、「時代小説SHOW」のベスト10の選定作業に取りかかっています。冬休みの宿題というか、正月を迎える準備というか、まあそんな感じです。
その合間を縫って、おすすめ本の紹介をしています(遅れ気味で申し訳ありません)。

横山起也(よこやまたつや)さんの文庫書き下ろし時代小説、『編み物ざむらい(二) 一つ目小僧騒動』(角川文庫)が出ました。

前作の『編み物ざむらい』を読んだとき、ファンを拡大し取り込む、新しい時代小説だと確信し、感動しました。その後、第12回日本歴史時代作家協会賞文庫書き下ろし新人賞も受賞し、これまで時代小説を手に取ることがなかった人にも読まれています。

悪党を懲らしめる裏稼業「仕組み」を手伝ったことで、ある能力に目覚めた浪人の感九郎。そのことに戸惑いながらも、メリヤスを編んで心を落ち着けていたある日――仲間で戯作者のコキリが行方不明に。常より「不老不死」を嘯き、素性が謎に包まれていた彼女の失踪には何か理由がありそうだ。捜索の旅に出た感九郎たちだったが、背後に不穏な影が忍び寄る。コキリは見つかるのか? 世を編み直す編み物ざむらい、再び見参!

(『編み物ざむらい(二) 一つ目小僧騒動』カバー裏の紹介文より)

黒瀬感九郎(くろせかんくろう)は正義感から、江戸で高名な医者の悪事をお上に訴えたことで、仕えていた凸橋家を召し放たれ、十九歳の若さで浪人となり、家からも勘当されました。

住む所がなくなった感九郎は、市井で出会った御前やジュノ(能代寿之丞)に誘われ、彼らが暮らす墨長屋敷に居候をする身に。「悪いことが起きるのは全て自分のせいなのだ」という思いに囚われています。そのような思いに取りつかれると、感九郎は編み物(メリヤス)を編むために鉄針と糸を手にするのでした。糸を手繰っていると、いつのまにか心が落ち着き、様々なな悩みを忘れられます。

「事情が有り居なくなる
  探さぬよう追わぬよう
  一年戻らな変えれば座敷のものは整理していただきたく御座候
                                  小霧」
                                  
 感九郎は固唾を飲んだ。
 コキリが失踪した。
 
(『編み物ざむらい(二) 一つ目小僧騒動』P.22より)

墨長長屋に暮らす仲間で、戯作者のコキリが書置きを置いて失踪しました。
コキリは、「人魚の肉を無理やり食わされて不老不死になった」といい、「過去」に苛まれていました。

江戸の町では「一つ目小僧が出る」いう話でもちきりで、一つ目小僧は人を攫うと言われています。

コキリと姉妹のように仲の良い、許嫁の真魚(まお)から、コキリは一つ目小僧に攫われたに違いない、仲間なのに助けに行かないのかと責められ、感九郎はコキリの失踪には私にも責があるはずで、その贖いをせねばならないと思うようになりました。

御前の尋常でない調査力によって、コキリの居所が判明し、感九郎はジュノと真魚とともに、コキリを捜索する旅にでます……。

 編みかけのメリヤスの上端に並ぶ無数の「糸の輪」に、左手に持つ鉄針が刺さっている。
 この「糸の輪」は「目」などと呼ばれているが、一番端の「目」へ右手の鉄針を差し込んで糸を手繰りだしてくると、新しい「目」ができあがる。
 それをひたすら繰り返していくと、メリヤスが出来上がっていくのだ。
 
 (中略)
 
 メリヤスは、目に見える自分の「過去」だともいえよう。
 ひょっとしたら糸を手繰り、「過去から今にいたる己」を編んでいるのかもしれない

(『編み物ざむらい(二) 一つ目小僧騒動』P.28より)

物語では、コキリの行方不明になった理由とともに、その過去も明らかになっていきます。「糸」を紡ぐように過去のことが今に繋がっていくのが面白く、気が付くとドップリ漬かっていました。

本書を読んでいると、冒険活劇にワクワクしながらも、ところどころに織り込まれている深いメッセージに心揺すぶられ、江戸の風習にも興味を惹かれます。

 一つ目小僧とは少々時季はずれのような気がする。
 普段は如月の八日に行われる「八日節供」と呼ばれる行事前後に噂になる妖である。

(『編み物ざむらい(二) 一つ目小僧騒動』P.32より)

「八日節供(ようかぜっぐ)」は、「事八日」とも言い、正月を挟んだ12月8日と2月8日の総称です。人々が仕事を休んで家に籠る、物忌みの日であり、その日の夜には「一つ目小僧」の妖怪がやってくるとも言われています。

そういった風習のことを全く知らなくても本書は十分楽しめますが、なんで「一つ目小僧」が出てくるんだろうと思われた方には、「八日節供」の意味を知るとさらに面白さが深まります。

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読み終えたばかりですが、早くも第三巻が待ち遠しくなりました。

2024年1月24日に、第12回日本歴史時代作家協会賞の文庫書き下ろし新人賞を同時受賞された横山起也さんと伊藤尋也(いとうひろや)さんの新刊記念対談が開催されます。『土下座奉行 どげざ禁止令』(小学館文庫)を刊行されたばかりの伊藤さんとの対談でどんな楽しい話が飛び出すのか、こちらも興味あります。

伊藤尋也×横山起也「第12回歴史時代作家協会文庫書き下ろし新人賞受賞作家新刊記念対談」『土下座奉行 どげざ禁止令』(小学館)『編み物ざむらい(二) 一つ目小僧騒動』(KADOKAWA)刊行記念
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編み物ざむらい(二) 一つ目小僧騒動

横山起也
KADOKAWA 角川文庫
2023年12月25日初版発行

カバーイラスト:丹地陽子
カバーデザイン:坂詰佳苗

●目次
第一章 感九郎、昏倒する
第二章 感九郎、動転する
第三章 感九郎、旅立つ
第四章 感九郎、山に入る
第五章 感九郎、調べる
第六章 感九郎、師匠となる
第七章 感九郎、呪われる
第八章 感九郎、怒られる
第九章 感九郎、安堵する
第十章 感九郎、驚愕する
第十一章 感九郎、「鬼」をほどく
第十二章 感九郎、編みつなぐ

本文324ページ

■今回取り上げた本
書き下ろし



横山起也|時代小説ガイド
横山起也|よこやまたつや|編み物作家、作家 編み物作家、文筆家。株式会社日本ヴォーグ社「編み物チャンネル」顧問/ナビゲーター。 2022年、『編み物ざむらい』で時代小説デビュー。 2023年、『編み物ざむらい』で第12回日本歴史時代作家協会...