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江戸にやってきた茂兵衛、今度は陸奥国九戸城攻めに参戦だ

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『三河雑兵心得(十三) 奥州仁義』|井原忠政|双葉文庫

三河雑兵心得(十三) 奥州仁義井原忠政(いはらただまさ)さんの文庫書き下ろし戦国小説、『三河雑兵心得(十三) 奥州仁義』(双葉文庫)が発売されました。

毎度部数のことに触れて恐縮ですが、前作の第12巻『小田原仁義』で文庫カバー帯に「100万部突破!」の文字が記されていましたが、本書の帯では「120万部突破!」の文字が入り、3カ月の間に20万部増えており、NHK大河ドラマ「どうする家康」が終盤に向かっていることもあってか、快進撃が続いています。

東三河の百姓出身の茂兵衛が徳川家康の家臣となって、戦を通じて出世を重ねていく「三河雑兵心得」シリーズ。主人公植田茂兵衛を通して、家康の天下統一の道のりを読者も追体験できることが魅力の一つとなっています。

秀吉の命令により、北条氏の旧領である関東に移封となった徳川家。家康に従い、一族郎党を引き連れて江戸にやっていた茂兵衛だが、辺りは葦が生い茂る湿地ばかりのうえ、あちらこちらで土を掘ったり埋めたりと喧しい。そんな中、陸奥国、南部家の家臣、九戸政実が秀吉の奥州仕置に異を唱え反旗を翻した。井伊直政の寄騎として出陣することになった茂兵衛は、家康から例によって難題を押しつけられる。戦国足軽出世物語、悪戦苦闘の第十三弾!

(『三河雑兵心得(十三) 奥州仁義』カバー裏の内容紹介より)

天正十八年(1590)九月、植田茂兵衛が率いる鉄砲百人組は駿府に入り、北条氏直を配流先の高野山に送り届け、帰還した報告を本多正信に行いました。茂兵衛は、正信からの書状で、上総国夷隅に七ヶ村三千石の新領地を与えられることを知らされていました。

屋敷へと帰った茂兵衛を娘の綾乃と妻の寿美が迎えました。

「もへえ!」
「たァけ、父上と呼べ」
 父親としての威厳を込めて、低めの声で厳しく窘めた。
「父上と呼ばねば、今後おまんとは口をきかん」
 甲冑を脱ぎ、沐浴を済ませ、平服に着替え、自邸の玄関式台で草鞋を突っかけたところに、綾乃が背後からドンと抱き着いてきたのだ。

(『三河雑兵心得(十三) 奥州仁義』P.29より)

最近の茂兵衛の悩みは、今年九歳になった綾乃が何度注意をしても父を呼び捨てにすること。近所でも評判の美少女で、優しく明るく賢い、非の打ちどころのない娘なのですが、どうにも父親だけは、見下して舐めている風が否めません。

戦では百戦錬磨の茂兵衛が、娘の前でたじたじとなり、完全に掌の上で転がされているのが何ともおかしく笑いを誘います。
井筒啓之さんによる表紙装画には、茂兵衛と綾乃が描かれています。

徳川家を挙げて、江戸への引越しが決まり、茂兵衛も江戸城の西、国府方(現在の麹町)に屋敷を拝領しました。隣家はかつて泥酔して喧嘩して真剣で斬り合った、隠密頭の服部半蔵(正成)です。半蔵には含む所がありそうで。

天正十九年(1591)六月、茂兵衛は急な呼び出しを受け、家康の住む仮御殿へと慌てて伺候しました。

「おまんと鉄砲百人組に、再仕置軍に加わって欲しいと思うて呼び出したのよ。最終的には殿も御出馬されることにはなるだろうが、まず先鋒隊として、上方勢に合流して欲しい」
「陸奥国まで参るのですか?」
「九戸と申す土地じゃ。なんぞ不都合でもあるか?」
「や、お役目とあれば、もちろん、喜んで」

(『三河雑兵心得(十三) 奥州仁義』P.147より)

南部信直麾下の陸奥国九戸城主九戸政実が昨年秋に行われた秀吉の奥州仕置に異を唱えて、この三月から九戸城に立て籠もっているといいます。

秀吉は「奥州仕置への異議は、惣無事令秩序に対する反逆」と捉え、六万人規模の再仕置軍が陸奥国へ派遣されることになりました。徳川軍にも参陣が求められ、総大将は「井伊の赤備え」井伊直政で、鉄砲百人組はその下に付くことに。

しかも家康からは、徳川が陸奥勢に恨まれぬよう、本気で戦ってはならない、ほどほどにやれと命じられました。

秀吉による天下統一が完成目前となり、戦国最後の戦いで大功を挙げるんだとやる気満々の家臣たちを、直政は抑えることができるのでしょうか?

本書では、激烈を極めた九戸城攻防戦が臨場感豊かに活写されています。
奥州再仕置だけでなく、徳川家臣の江戸入りの混乱や江戸の町づくりの様子も、為政者目線ではなく、そこに住むことになる家臣目線から描かれていて興味を持ちました。

茂兵衛の活躍を通して、戦国の歴史をたどるのは、やはり痛快です。
戦の中にあって生き生きと動く茂兵衛ですが、農民出身らしい視点や、情に厚い面も描かれていて、快い読み味をもたらしてくれます。

今後、朝鮮出兵をどのように描いていくのか、気になります。

秀吉軍の九戸城攻めを描いた歴史時代小説というと、安部龍太郎さんの『冬を待つ城』も忘れられない名作で、おすすめします。

三河雑兵心得(十三) 奥州仁義

井原忠政
双葉社 双葉文庫
2023年12月16日第1刷発行

カバーデザイン:高柳雅人
カバーイラストレーション:井筒啓之

●目次
序章 鰯雲のころ
第一章 江尻城の東屋
第二章 茂兵衛、江戸を歩く
第三章 奥州再仕置
第四章 みちのくの意地、秀次の面目
終章 九戸政実の首

本文276ページ

文庫書き下ろし

■今回取り上げた本




井原忠政|時代小説ガイド
井原忠政|いはらただまさ(経塚丸雄)|時代小説・作家 神奈川県出身、神奈川県鎌倉市在住。会社勤務を経て文筆業に入る。 2016年、経塚丸雄のペンネームで『旗本金融道(一) 銭が情けの新次郎』で時代小説デビュー。 2017年、同作で、第6回歴...