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最強兵器の土下座を禁止された「どげざ駿河」。どうする?

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『土下座奉行 どげざ禁止令』|伊藤尋也|小学館文庫

土下座奉行 どげざ禁止令時代小説デビュー作『土下座奉行』で、本年度の第12回日本歴史時代作家協会賞文庫書き下ろし新人賞を受賞した、伊藤尋也(いとうひろや)さんの続編が出ました。

『土下座奉行 どげざ禁止令』(小学館文庫)です。

2作目で、早くも掟破りの「土下座禁止令」って?
読む前からワクワクドキドキ、期待感のハードルをグンと上げてしまって大丈夫?

いまや大岡越前の名裁きを超えると評判の高い「どげざ裁き」。町人から拍手喝采を浴びる町奉行の牧野成綱だったが、なんと土下座禁止の命が下ってしまう。敵対する老中の水野忠邦と阿部正弘の嫌がらせに絶体絶命の牧野。今日のお白洲は「三方一両損」ならぬ、「三方一どげ損」で、紙一重の落着に導いたはいいが、すぐさま最大の危機が町奉行所に襲いかかる。江戸市中に阿片がで回っているというのだ。南北町奉行所総出で探索する中、同心の小野寺重吾は、「げんこつ咲く良(さくら)」と呼ばれる喧嘩娘に出会う。彼女は一体何者なのか? 気炎万丈の剣戟捕物、再び参上!

(『土下座奉行 どげざ禁止令』カバー裏の紹介文より)

牧野駿河守成綱は、北町奉行に就いてからふた月以上が過ぎましたが、相手が町人であろうと場所が白洲であろうと、ためらうことなく土下座をして、裁きを次々に落着させ、講談の大岡越前と並び称されるほどに。
瓦版にも取り上げられことが増え、奉行所に“どげざ奉行”の名裁きを見るために物見遊山の野次馬が集まることも。

“しゅうとめ重吾”と呼ばれ、真面目で頭が固く口うるさい、廻り方同心、小野寺重吾は、(名裁き……であるのか?)(お奉行、なにゆえに土下座をなさる?)と、牧野駿河守の白洲そのものに、釈然としない想いを抱いていました。

そんなある日、小野寺は、棒手振りの魚屋のハマジと女房のトメの夫婦喧嘩の仲裁に入って、トメの投げた茶碗が二度もおでこに命中し、二度とも失神してしまいました。
北町奉行所最強の剣士である小野寺が傷を負わされたことで、内々で済ますことができずに、夫婦は奉行所の牢に押し込められてしまいます。

「うむ。皆、わかってくれたようだな。――それでは、あとは魚屋夫婦の処遇であるか。小野寺よ、瘤を作られた身として件の二人をどうしたい?」
「はっ。どうか御温情あるお裁きを。あの二人、悪い者めらではございませぬ」
「よかろう。お主がそう申すならば異存はない。――ちょうど明日の午後が空いておる。儂が自らお白洲で、一発かましてやろうではないか」

(『土下座奉行 どげざ禁止令』 P.30より)

北町奉行牧野駿河守が土下座をすれば、あらゆる物ごとは上手くいく、とだれもがそのように信じていました。

ところが、かのお裁きの日、登城した牧野駿河守を待ち構えていたのは、鷹羽四郎五郎、沢瀉於菟五郎と偽名を名乗る、さるお方と別のお方の使者でした。

 牧野駿河の膝と手はすでに床にべったり突かれ、もはや額も床に触れる寸前。偽名の使者は、駆け込みの大急ぎで声を上げる――。
「牧野駿河守殿に、土下座の禁止を申し渡すとのことでございます!」
 額は残り半寸にて下げ止まった。

「なんと、土下座禁止と?」

(『土下座奉行 どげざ禁止令』 P.51より)

二人の使者を派遣したのは、片や元老中で天保の改革の立役者で、一度は失脚しながらも再び権力の中枢に返り咲いた水野越前守忠邦。家紋は沢瀉(おもだか)です。

もう一人は、二十七歳の若さで老中に就き、思想や政策で水野と対立している、阿部伊勢守正弘です。家紋は鷹羽(たかのは)。

駿河守の土下座が目障りで、封じることを選び、いがみ合う二人は手を結びました。

“どげざ奉行”牧野駿河守成綱、就任以来最大の危機が今始まります。

土下座を禁止された奉行による、魚屋夫婦の裁きはいかに?

裁きの後、奉行は、廻り方同心十二名を集め、江戸で毒入り阿片“蝦蟇ちどり”が売り買いされ、ひそかに市中で広まり続けているという危機を打ち明けて、全員で探索に尽力するように命じます……。

今回、得意の土下座を禁止された牧野駿河守は、いかにして事件を解決していくのでしょうか? また、小野寺は“蝦蟇ちどり”を売り広めている陰の組織の正体を掴むことができるのでしょうか?

さらに「げんこつ咲く良」と名乗る、謎の喧嘩娘まで登場し、小野寺に絡んでいきます。

クスッと笑えるおかしさを織り交ぜながら、リーダブルで痛快なストーリーを堪能できます。本編と本編の間に挟まれた、脇役が語る「幕間」が効いています。視点を切り替えることで、物語を重層的に味わうことができます。

1作目よりもさらに面白さがパワーアップした本書。著者の快進撃はまだまだ続きそうで、次作がますます楽しみなりました。

●時代小説に登場する家紋

水野沢瀉紋

水野家の沢瀉紋

 
阿部鷹の羽紋

阿部家の鷹の羽紋



土下座奉行 どげざ禁止令

伊藤尋也
小学館・小学館文庫
2023年11月12日初版第1刷発行

カバーイラスト:西山竜平
カバーデザイン:鈴木敏文(ムシカゴグラフィクス)

●目次

壱「三方一どげ損(前編)」
幕間の壱
弐「三方一どげ損(後編)」
幕間の弐
参「蓮っぱだぬきと蝦蟇ちどり(前編)」
幕間の参
肆「蓮っぱだぬきと蝦蟇ちどり(後編)」
幕間の肆
伍「あへん先生(前編)」
幕間の伍
陸「あへん先生(前編)」

本文345ージ

本書は文庫書き下ろし。

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『土下座奉行』(伊藤尋也・小学館文庫)

『土下座奉行 どげざ禁止令』(伊藤尋也・小学館文庫)

伊藤尋也|時代小説ガイド
伊藤尋也|いとうひろや|時代小説・作家1974年、岐阜県生まれ。2020年、警察小説『小学生刑事(デカ)』で作家デビュー。2021年、『孫むすめ捕物帳 かざり飴』(小学館文庫)で時代小説作家としてデビュー。2023年、『土下座奉行』で第12...