新キャラ登場、黒幕と対決、そして大団円へ。シリーズ最終巻

『さらさら鰹茶漬け 居酒屋ぜんや』|坂井希久子|時代小説文庫

さらさら鰹茶漬け 居酒屋ぜんや坂井希久子さんの時代小説、『さらさら鰹茶漬け 居酒屋ぜんや』を入手しました。

小旗本の次男坊で、鶯が美声を放つよう飼育するのが得意で、その謝礼で一家を養っている林只次郎は、ある日暖簾をくぐった居酒屋で、美人女将お妙に一目惚れし、その絶品料理に癒され、通い詰めました。

一方、お妙は、両親と良人の死に至らしめた事件の影を長らく引きずっていました。

さまざまな騒動を経て、只次郎の思いはやがてお妙にも通じますが、身分の違いやお妙の過去もあっても、すんなり夫婦にとはまいりません。

ところが、シリーズ第10巻となる本書の説明文に「最終巻!」の文字が。
ああ、なんということでしょう。
読まずにはいられません。

夏の暑い盛り、往来を歩いていた只次郎は、いきなり倒れた少女を介抱した。少女の名は、お花。痩せた体と歳に似あわぬ拙い言葉に、只次郎は待を疑うが……。少女を救うため、奔走する只次郎。一方、結ばれたはずのお妙との仲は、どこかぎこちなくて!? やがて、ついてにお妙の両親と良人を殺した黒幕と対峙することに……!
只次郎とお妙は過去と今の苦難を乗り越え、幸せを掴むことはできるのか。温かい林檎煮、納豆、赤鱏の刺身に、心温まる鰹茶漬け。彩り豊かな料理が心を救う、傑作人情時代小説、最終巻!

(本書カバー裏の内容紹介より)

寛政六年(一七九四)、水無月二十七日。
一年で最も暑気の激しい昼、下谷広小路を歩いていた林只次郎は、いきなり倒れてきた幼い女の子を抱き留めて介抱しました。
瘦せこけた体が熱を発し、薄く目を開けていますが、意識は朦朧としているようでした。
只次郎は、神田花房町代地にある、居酒屋「ぜんや」に子供を連れて帰りました。
熱中症の症状が見られる少女はお花という名で、お妙に応急処置をしてもらい、医者を呼び、布団の上で寝かされたことで、やがて体は回復しました。

起き上がれるようになったお花に、お妙は店で作った料理を折敷に載せて持ってきて勧めました。

 只次郎とお妙が見守る中、お花は翡翠色の衣を纏った蛸を口にする。何度か咀嚼しをして飲み込むと、ふいに真顔になった。
 感情の読み取れない顔である。お妙が下からおそるおそる覗き込んだ。
「お口に、合わなかったかしら?」
 お花は真顔のまま首を振る。「びっくりした」と言って、口元を手で覆った。
「世の中に、こんなに美味しいものがあったんだ」
 相変わらず、表情は硬い。だがその瞳は、微かに潤んでいた。
 
(『さらさら鰹茶漬け 居酒屋ぜんや』P.35より)

本シリーズでは、多彩な人物が登場し、只次郎とお妙に二人に関わって、物語に彩りを添えていきます。お花の登場が水に投げ入れた小石のように、二人の間に波紋を広げていき、興趣を深めていきます。

「そんなに心配なら、もう観念して夫婦になりませんか」
「嫌です。噓つきだもの」
「そこをなんとか」
「嫌ったら嫌!」
 
(『さらさら鰹茶漬け 居酒屋ぜんや』P.186より)

やさしく真っ向から人に尽くす只次郎を好ましいと思いながらもその愛を素直に受け止められないお妙。お妙の心情を慮る只次郎。
「戻る場所」の章では、恋愛小説の名手でもある著者の筆致が冴える、名場面が堪能できます。

カバー帯には、第2シーズンを予告する文言が。

そして……
新たな「ぜんや」の物語が
この秋、始まります!

1巻~10巻を読み直して、この秋を心待ちにします。

さらさら鰹茶漬け 居酒屋ぜんや

坂井希久子
角川春樹事務所 時代小説文庫
2021年4月8日 第一刷発行

装画:Minoru
装幀:藤田知子

目次
暑気あたり
草市の夜
棘の尾
甘い算段
戻る場所

本文236ページ

初出:「暑気あたり」「草市の夜」「棘の尾」「甘い算段」はランティエ2020年11月~2021年2月号に掲載された作品に、修正を加えたもの。
「戻る場所」は書き下ろし。

■Amazon.co.jp
『さらさら鰹茶漬け 居酒屋ぜんや』(坂井希久子・時代小説文庫)(第10弾)
『ほかほか蕗ご飯 居酒屋ぜんや』(坂井希久子・時代小説文庫)(第1弾)

坂井希久子|時代小説ガイド
坂井希久子|さかいきくこ|作家 1977年、和歌山県生まれ。同志社女子大学学芸学部日本語日本文学科卒業。 2008年、「虫のいどころ」で第88回オール讀物新人賞を受賞。 2017年、『ほかほか蕗ご飯 居酒屋ぜんや』で第6回歴史時代作...