『脳科学捜査官 真田夏希 ジャスティス・エボニー』|鳴神響一|角川文庫
鳴神響一(なるかみきょういち)さんの人気警察小説シリーズの第21弾、『脳科学捜査官 真田夏希 ジャスティス・エボニー』(角川文庫)は、警察犬アリシアとバディで本部鑑識課の小川祐介の絆と活躍をたっぷりと楽しめる警察小説です。
神奈川県警科捜研に所属する心理分析官・真田夏希も何度もアリシアに危難を救ってもらい、アリシアを愛する警察官のひとり。
横須賀市内で大学教授の息子が幼稚園への登園途中に誘拐された。神奈川県警の心理職特別捜査官の真田夏希は、刑事部長命令により捜査本部に向かうが、犯人からは犯行声明と身代金を要求するメッセージのみで、手掛かりは皆無だった。行き詰まりを感じ始めた時、警察犬係の小川とアリシアの活躍により、犯人が車で子どもを連れ去ったと判明。事態は好転すると思われたが……。アリシアと夏希は犯人に迫ることができるのか。
(『脳科学捜査官 真田夏希 ジャスティス・エボニー』カバー裏の紹介文より)
アリシアは、スウェーデンで地雷探知犬として、きちんと訓練を受け、その後、カンボジアで地雷探知犬として働いた、黒色のドーベルマン。3歳3カ月のときに、日本に来ました。その半年前に地雷の爆発事故に遭い、右目を失明し、爆発の後遺症でPTSDも発症し、地雷探知犬の基準を外れ処分されるところ、現地の誰かによって日本行きの貨物船に潜り込ませられました。
動物愛護センターに保護されたときに、日本でも爆発物探知犬や警察犬としての活躍が見込まれると専門家に鑑定されて、小川とバディを組むことに。
梅雨明けの月曜日、科捜研に出勤した真田夏希は、中村心理科長から横須賀中央署に行くように命じられました。
横須賀中央署には捜査本部が開設され、刑事部長の織田信和が指揮本部長、高坂昌夫横須賀中央署長が副本部長、福島正一捜査一課長が捜査主任となりました。
佐竹義男管理官、捜査一課強行第七係の石田三夫巡査長と小堀沙羅巡査長、江の島署の加藤清文巡査部長と北原兼人巡査ら、夏希と顔なじみの面々も捜査本部に入りました。
横須賀市内で大学教授依田信康の一人息子信悠が、幼稚園への登園バスに乗る直前に誘拐されました。警察が信悠を発見できないでいるうちに犯行メッセージがありました。
――依田教授の一人息子を誘拐した。警察はいっさい動くな。
《キメラ》
(『脳科学捜査官 真田夏希 ジャスティス・エボニー』P.76より)
犯行声明はきわめて短文で、このメッセージから犯人の特徴などを読み解くことは難しく、正体を隠そうとすることに気を遣っているとしか思えず、知能の低い人間とは思えません。
キメラはギリシャ神話に登場する怪物で、あるゲームのキャラクター名でもあります。また、現時点での要求事項はなく、警察は手掛かりすら掴めません。
夏希らは、いかにして、犯人に近づくことができるのでしょうか?
そして、アリシアが警察犬として活躍するシーンはあるのでしょうか?
――次の口座に暗号資産で二〇〇万ドルを振り込め。午前〇時までに入金を確認できない限り、信悠を殺害する。
《キメラ》
(『脳科学捜査官 真田夏希 ジャスティス・エボニー』P.110より)
午前0時までと時間を切られたうえに、用意するのが困難な大金の身代金。
遅々として進まない捜査。
犯人につながる手掛かりを見つけたのは、アリシアでした……。
タイムリミットを設定を設定されたことで、捜査はより困難なものに。
捜査員たちがそれぞれの特長を生かして連携していき、一瞬たりとも目が離せない、ひりひりするような緊張感がたまりません。
夏希の存在もかすむほど、今回はアリシアの魅力が横溢する、警察犬小説の決定版です。
犬好きの人は言うまでもなく、そうでない人も思わずアリシアに寄り添いたくなります。
本シリーズではタイトルに色の名前が入っていますが、「エボニー(ebony)」は「黒檀」を指し、赤みがかった黒色のことを言います。
本書では、アリシアの毛色を表しています。
1982年に発表された、スティーヴィー・ワンダーとポール・マッカートニーの曲に「エボニー・アンド・アイボリー」(Ebony and Ivory)があります。黒と白の鍵盤が隣り合っているピアノのように、肌の色(人種や国)が違っても一緒に仲良くやっていこうという歌。
世界中でさまざまな差別や分断が顕著になっている今、スローテンポな名曲を聴いてみるのもおすすめです。
脳科学捜査官 真田夏希 ジャスティス・エボニー
鳴神響一
KADOKAWA 角川文庫
2024年7月25日初版発行
カバー写真・デザイン:舘山一大
●目次
第一章 はじめましてアリシア
第二章 横須賀中央署
第三章 キメラ
第四章 アリシアが見た景色
本文268ページ
文庫書き下ろし
■今回取り上げた本