脇役が語る『脇役』の魅力

北原亞以子さんの『脇役 慶次郎覚書』を読み終えた。「慶次郎縁側日記」シリーズの脇役たちが、一話完結で入れ替わりで主役を張るという趣向が楽しい。辰吉、吉次、佐七、皐月といった重要な脇役陣の別の顔やバックグラウンドが描かれていて身近に感じられて、ますますシリーズの虜になってしまう。

脇役―慶次郎覚書 (新潮文庫)

脇役―慶次郎覚書 (新潮文庫)

南町奉行所の定町廻り同心で慶次郎のかつての部下の島中賢吾や、その賢吾から十手を預かる岡っ引きの太兵衛、岡っ引きの辰吉のもとで下っ引きを務める弥五など、今まで、その家族構成や生い立ちが描かれてこなかったチョイ役的な脇役たちも、今回は光っている。

ドラマで吉次を演じている奥田瑛二さんが解説を書かれていた。

 冷酷な吉次と弱い吉次。どちらを演じるのがよかったのか。それは分からない。ただ、ドラマの中でも小説シリーズの中でも、普段の吉次はあくまでも脇役である。ということは、あまり多面的な性格を表さなくて正解に思える。

(中略)

 多面性を打ち出すのは、主役だけにしなければいけない。強いところと弱いところ、生真面目な性格とユーモラスな姿、そういうものを一つの人格から自在に繰り出していけるのが、主役の演技というものだ。

(『脇役 慶次郎覚書』解説 P.299より)

この主役と脇役のあり方というのが、俳優ならではの視点で面白い。確かに、この作品の魅力は普段はシンプルに描かれる脇役たちが、多面性を見せてくれることに拠ってる。奥田さんの解説は、役柄にほれ込んでいる姿が伝わってきて良い文章だなあ。