『鯖猫長屋ふしぎ草紙(八)』
田牧大和さんの人気時代小説シリーズの第八弾、『鯖猫長屋ふしぎ草紙(八)』(PHP文芸文庫)を紹介します(もう少し早く取り上げるつもりでしたが、遅くなってすみません)。
本書は、根津権現近くの根津宮永町にある鯖猫長屋に暮らす、売れない絵師・青井亭拾楽と美猫サバが活躍する、「大江戸謎解き人情ばなし」の最新刊です。
「鯖猫長屋」の家主で饅頭屋を営むお智の様子がおかしいと聞いた画描きの拾楽は、頼りになる猫サバを連れて店に出向く。ところが、現れた不気味な白い鴉を見たサバは逃げ出してしまう。一方、「二キのご隠居」の世話をしている太市が、お智の店に行ったまま行方不明になっていることが判明し……。太市は事件に巻き込まれたのか、それとも――。
(カバー裏の内容紹介より)
「二キのご隠居」と呼ばれる、臨時廻同心・菊池喜左衛門の世話をしている少年・太市は、お智の営む饅頭屋「見晴屋」を訪ねました。お智に挨拶をしようと勝手口に続く路地へ入ったとき、肩に真っ白な鴉が舞い降りてきて肩に止まり、太市を仰天させました。鴉は大層人懐こく、太市の頬をじゃれるようにつんつんと突いて、「かあ」と鳴きました。
そのとき、背中から、誰かが太市の首筋に刃物が当てて、「坊主、お前ぇが『白鴉』だな。静かにしろ。大人しくしてくれりゃあ、怪我はさせねぇ」と人質にして、ちょうど路地に現れたお智ともども脅して、勝手口から店に押し入りしました。
白い鴉がのびやかに羽を広げ、「彦成屋」の上辺りで輪を描くように飛んでいる。
やがて鴉は、「見晴屋」の庭へ降り、外からは見えなくなった。
ほどなくして、サバとさくらが戻ってきた。
サバが、拾楽の傍らで、ぶるぶると、身体を振った。
「珍しいね。お前が、鴉を怖がるなんて」
からかった拾楽を、サバがじろりと見上げた。
榛色の瞳が、ほんの微か、青みがかっている。妖、お化けの類の兆しがある証だ。
(『鯖猫長屋ふしぎ草紙(八)P.30より』)
太市は行方不明になり、お智の様子もおかしくなりました。
心配して「見晴屋」に様子を見に来た拾楽とサバの前に真っ白な鴉が現れました。頼りのサバも、白い鴉を避けて、妹分の猫・さくらと姿を隠し、戻ってきたときにはぶるぶると身体を震わせていました……。
太市とお智を監禁する男は誰で、狙いは何か?
男が言う『白鴉』とは何者なのか?
拾楽は謎を解いて太市とお智を救い出せるのか?
サバは妖を退治できるのか?
今回もサバの千両役者ぶりにウットリし、拾楽と通称「成田屋の旦那」こと、定廻り同心掛井十四郎の漫才のようなやり取りに笑わされて、鯖猫長屋の住人たちの人情に触れ、大いに楽しめます。。
そして、すべての謎が解けたとき、『大切な人』は誰なのかがわかり、温かな気持ちになります。
白い鴉は実在するののか、気になってネット検索をしたところ、白い鴉の画像がいくつも見つかりました。
アルビノ(先天的にメラニンが欠乏する遺伝子疾患のある個体のこと)もしくは白変種のカラスだそうで、物語に登場するような、羽の色の真っ白で赤い目をした鴉もいました。
鯖猫長屋ふしぎ草紙(八)
著者:田牧大和
PHP文芸文庫
2020年3月19日第1版第1刷発行
文庫書き下ろし
装丁:泉沢光雄
装画:丹地陽子
●目次
其の一 ぼんくらになった猫
其の二 頭に血が上った同心
其の三 縁を結んだ犬
其の四 狙われた長屋
本文297ページ
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『鯖猫長屋ふしぎ草紙(八)』(田牧大和・PHP文芸文庫)(第8作)
『鯖猫長屋ふしぎ草紙』(田牧大和・PHP文芸文庫)(第1作)