小野次郎右衛門忠常とその弟忠也

上田秀人さんの『孤影の太刀』を読み始めた。この時代小説の主人公は、織江緋之助こと、小野派一刀流の小野次郎右衛門忠常の息子友悟。小野派一刀流は、剣聖として名高い伊藤一刀斎の直弟子、神子上典膳(みこがみてんぜん)が開祖。

戦国の末期、晩年まで一刀斎の側近くに仕えた神子上典膳と小野善鬼(おのぜんき)のどちらかに印可が与えられることになった。しかし、善鬼はその結論が出る前に印可の巻物を奪って逃げ出した。その追っ手に選ばれた典膳は、師の太刀を借り、善鬼をついに追い詰めた。逃げ場を失った善鬼は、農家の水瓶に身を潜めた。典膳は、一刀斎から教えられた威の位の太刀で、その瓶ごと小野善鬼を一刀両断した。その場で一刀斎から一刀流の印可と瓶割りと名付けられた太刀を贈られた典膳は、この逸話を子々孫々まで残すために名字を小野とあらためた。小野次郎右衛門忠明である。

神子上典膳と小野善鬼の争いは、藤沢周平さんの『決闘の辻』にも描かれている。

新装版 決闘の辻 藤沢版新剣客伝 (講談社文庫)

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忠明は、その後旗本として将軍家剣術指南役を務める。その忠明の長男が小野次郎右衛門忠常であるが、その弟小野典膳忠也(おのてんぜんちゅうや)によって、忠也流小野派一刀流が生まれる。剣の才能では兄をしのぐという忠也は、激烈な修行の末、五十歳を過ぎて安芸国広島に道場を開き、弟子を取るようになった。

『孤影の太刀』には、主人公緋之助の父忠常や、兄の忠於のほかに叔父の忠也も登場し、緋之助に剣を教えるシーンもあり面白い。