『豊臣家族 歴史小説傑作選』|今村翔吾・木下昌輝・澤田ふじ子・白石一郎・宮本昌孝・谷津矢車著、細谷正充編|PHP文芸文庫
細谷正充(ほそや・まさみつ)さんの編による歴史小説アンソロジー、『豊臣家族 歴史小説傑作選』(PHP文芸文庫)を紹介します。
2026年のNHK大河ドラマ「豊臣兄弟!」では、仲野太賀さんが豊臣秀長(小一郎)を演じます。貧しい農家に生まれた三歳年上の兄・秀吉(藤吉郎)をすぐそばで支え、秀吉が天下人へと駆け上がる道のりをともに歩んだ、苦労人の弟です。「もし秀長が長生きしていれば、豊臣の天下は安泰だった」とも言われています。
あらすじ
天賦の才と豪運によって、一代で天下人に上り詰めた名将・豊臣秀吉。突如として公武双方の頂点に立った「豊臣家」の人々は、どのように生き、そして散っていったのか。
秀吉の右腕として栄達を支えた弟・秀長が、自らの初恋の苦い顛末を通してその生涯を回顧する「小一郎と天下と藍と」(谷津矢車)や、秀吉の正室・おねの視点から豊臣家の最期を描いた「ゆめの又ゆめ」(白石一郎)など、豪華作家陣による傑作アンソロジーです。(『豊臣家族 歴史小説傑作選』カバー裏の内容紹介より)
ここに注目!
アンソロジーが大好物でよく読みます。「豪華執筆陣」という言葉をよく目にしますが、本作のラインナップには、まったく異論がありません。特に、かつてお気に入り作家のベスト1位と2位に挙げていた澤田ふじ子さん(作家・澤田瞳子さんのお母様)と白石一郎さん(作家・白石一文さんのお父様)の作品が収録されていることには、感激しました。お二人の本を探して都内の書店を駆け回った日々が、懐かしく思い出されます。
一時代を築いた歴史時代小説作家の短編を味わえるのは、アンソロジーならではの大きな魅力です。
個人的な話はこのあたりにして――本書では、秀長を主人公にした短編だけでは構成が難しいため、「豊臣家族」として、豊臣家に関わる人物をそれぞれ取り上げています。
今村翔吾さんの「土を知る天下人」では秀吉を、白石一郎さんの「ゆめの又ゆめ」では正室・おねを、澤田ふじ子さんの「淀どの覚書」では側室・淀殿を、木下昌輝さんの「お拾い様」では秀吉の嫡男・秀頼を、そして宮本昌孝さんの「一の人、自裁剣」では甥である関白・秀次を描いています。
そして、弟・秀長(小一郎)については、谷津矢車さんが書き下ろしの「小一郎と天下と藍と」で、その生涯を鮮やかに綴っています。若き日の初恋が爽やかに描かれており、彼を主人公んした作品が少ないという点を逆手に取った巧みな企画といえるでしょう。
何よりも、数多の歴史小説に精通した細谷さんならではの編纂です。まるで歴史時代小説のデータベースが頭の中にあるかのような、見事なセレクションです。
書籍情報






