2024年時代小説(単行本/文庫書き下ろし)ベスト10、発表!

名手たちが競演。東海道をめぐる不思議で怖い時代アンソロジー

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『東海道綺譚 時代小説傑作選』|菊地秀行、京極夏彦、澤田瞳子、永井紗耶子、宮部みゆき、山田風太郎著、細谷正充編|ちくま文庫

東海道綺譚 時代小説傑作選時代小説アンソロジーの第一人者、細谷正充(ほそや・まさみつ)さんによる時代小説傑作選の第2弾、『東海道綺譚 時代小説傑作選』(ちくま文庫)をご紹介します。

『大江戸綺譚』に続くアンソロジー第2弾となる本書のテーマは、東海道を舞台にした奇譚(不思議な話や怪異譚)です。江戸と京を結ぶ東海道は、江戸時代を代表する幹線道路であり、多くの旅人が行き交いました。その道中には、数え切れないほどの物語が生まれていたことでしょう。

あらすじ

北品川宿で“祟り柳”とともに繁盛する旅籠「柳屋」。その祠を主人の吉兵衛が打ち壊したことから襲いかかる数々の災厄の真相とは──(「柳女」)。小間物商・伊勢屋の若夫婦が、箱根への湯治の帰りに戸塚で足止めされる。相部屋になった老女が語る、身の毛もよだつ儀式の正体とは──(「ばんば憑き」)。 御江戸・日本橋を起点に、品川宿、箱根、岡崎、四日市、そして京都までを巡る6つの旅が展開されます。

(『東海道綺譚 時代小説傑作選』カバー裏の内容紹介より)

ここに注目!

東海道を舞台とした時代小説は多くありますが、「短編」かつ「奇譚」という括りになると、その数はぐっと限られてきます。ゆえに、収録作品の選定は相当難航したのではないかと想像されます。

しかし、編者の細谷さんはこの難題をいともたやすくクリアしています。登場する宿場は、日本橋、品川、戸塚、箱根、沼津と、東海道の旅路に沿ってバラエティ豊かです。さらに、巻末を飾る山田風太郎さんの「ガリヴァー忍法島」では、視点を変えて京から江戸へと逆に下る構成となっており、四日市、岡崎、焼津と進む中で、さまざまな忍法対決が繰り広げられます。読み応えは十分です。

加えて、京極夏彦さん、宮部みゆきさん、澤田瞳子さんといった豪華な執筆陣が名を連ねているのも見逃せません。

なかでも注目したいのが、東海道の起点である日本橋を舞台にした、菊地秀行さんによる「江戸珍鬼草子」です。これは、江戸時代の知られざる戯作者・入江鳩斎による浮世草子を、菊地さんが現代語訳したという体裁で書かれたショートショートです。もともとは、井上雅彦さん監修のアンソロジー『異形コレクション 江戸迷宮』に収録されていた作品です。

また、永井紗耶子さんによる「精進池」も見逃せません。こちらは、著者にとって初の伝奇小説であり、「操觚の会」編のアンソロジー『妖ファンタスティカ2 書下し伝奇ルネッサンス・アンソロジー』のために書き下ろされた貴重な一作です。

こうした、他ではなかなか読めない作品に出合えるのも、アンソロジーの醍醐味といえるでしょう。時代小説ファンはもちろん、怪異譚や伝奇小説に興味のある方にもおすすめしたい、読み応えたっぷりの一冊です。

書籍情報

東海道綺譚 時代小説傑作選
菊地秀行、京極夏彦、澤田瞳子、永井紗耶子、宮部みゆき、山田風太郎著、細谷正充編
筑摩書房 ちくま文庫
2025年5月10日第一刷発行

カバーイラスト:大竹彩奈
カバーデザイン:芦澤泰偉

●目次
江戸珍鬼草子 入江鳩斎・作、菊地秀行・訳
柳女 京極夏彦
死神の松 澤田瞳子
精進池 永井紗耶子
ばんば憑き 宮部みゆき
ガリヴァー忍法島 山田風太郎

解説 細谷正充

本文305ページ

●底本
「江戸珍鬼草子」入江鳩斎・作、菊地秀行・訳(『異形コレクション 江戸迷宮』井上雄彦監修・光文社文庫・2011年)
「柳女」京極夏彦(『巷説百物語』角川文庫・1999年)
「死神の松」澤田瞳子(『関越えの夜 東海道浮世がたり』徳間文庫・2017年)
「精進池」永井紗耶子(『妖ファンタスティカ2』操觚の会編・アトリエサード・2019年)
「ばんば憑き」宮部みゆき(『お文の影』角川文庫・2011年)
「ガリヴァー忍法島」山田風太郎(『武蔵忍法旅 山田風太郎忍法帖短編全集8』ちくま文庫・2004年)

ちくま文庫オリジナル編集

■今回取り上げた本


細谷正充編|時代小説ガイド
細谷正充|ほそやまさみつ|文芸評論家・書評家1963年生まれ。時代小説、ミステリーなどのエンターテインメントを対象に、評論・執筆。自宅に20万冊という膨大な書庫を持つ蔵書家。2018年より、優れたエンターテインメント小説5作品を選出して「細...