光文社文庫の2025年5月の新刊をご紹介します。
今月も楽しみな作品がそろっており、どれから読みはじめようか、大いに悩んでしまいます。
『お茶漬けざむらい』
カバーイラスト:NAGA
カバーデザイン:坂野公一(welle design)
あらすじ
妹尾未明(せのお・みめい)は、味覚の良さだけが取り柄の若き落ちこぼれ武士です。
唯一の特技である「お茶漬け」を通じて、次第に人々の心をときほぐしていき、いつしか本人の意思とは裏腹に「お茶漬けざむらい」と呼ばれるようになります。
そんな未明に、膳奉行の長男・四条園城華山が宣戦布告。二人は「舌勝負」で対決することに――。
新しい時代の夜明けを目前に、胃袋から難問を解決へと導く、幕末グルメ時代小説です。
(カバー裏の説明文より抜粋・編集)
ここに注目!
著者の横山起也さんは、2022年12月に『編み物ざむらい』(角川文庫)で小説デビュー。同作で第12回日本歴史時代作家協会賞文庫書き下ろし新人賞を受賞されています。
前作の主人公・黒瀬感九郎(くろせ・かんくろ)は、編み物で難題を解決する「編み物ざむらい」でしたが、今作の主人公・妹尾未明は、「お茶漬けざむらい」です。
子どものころから引きこもりがちで、大事な場面になると身体がこわばり、失敗を繰り返してきた未明。そんな彼の特技は、美味しいお茶漬けをつくることでした。
ある日、売れっ子芸者・お蜜の依頼を受け、素封家の義一と「舌ためし」に臨むことに。作中には、バンクシーを想起とさせる謎の絵師・伴櫛(ばんくし)の作品も登場し、深い人生観や哲学も感じさせる、新感覚の時代小説に仕上がっています。
目次
第一章 海苔の茶漬け
第二章 べそら漬けと水まま 一
第三章 だしの茶漬け
第四章 べそら漬けと水まま 二
第五章 牡蠣の茶漬け
第六章 鮪の茶漬け
第七章 刺身の茶漬け
第八章 茶漬け屋の茶漬け
2025年5月20日 初版1刷発行
本文305ページ
文庫書き下ろし

『手遅れ清州 藪医者日誌』
カバーデザイン:Fieldwork(田中和枝)
カバーイラスト:西のぼる
あらすじ
不忍池の西にある光泉寺。その本堂裏の家作にて、ひと癖ある医者・半井清州(なからい・せいしゅう)が、次々と運ばれてくる患者たちを診ています。
貧しい者からは代金を取らず、善良な人には優しく接する一方で、悪党に対しては「手遅れ」と告げて治療を拒むことも。唐の拳法と医術の技を身につけた正義感あふれる蘭方医が、弱きを助け、悪を討つ――藤井邦夫さん渾身の新シリーズ、ついに開幕です。
(カバー裏の説明文より抜粋・編集)
ここに注目!
捕物小説や剣豪ものなど、武士を主人公とした痛快時代小説を数多く手がけてきた藤井邦夫さん。今回は、医者を主人公に据えた異色の作品となっています。
医術を題材とした時代小説は、漢方に加えて、時代によっては蘭方の知識も求められる難しさがあります。
本作の主人公・半井清州は、貧しい者には無償で治療を施す優しい医者である一方、悪党には「手遅れ」として治療を拒むという、強い信念を持った人物です。
「半井家」といえば、江戸幕府で典薬頭を世襲した、名門の医家。そんな家名を背負う清州の過去にも、今後ますます注目が集まりそうです。
目次
第一話 藪医者
第二話 記憶忘れ
第三話 不治の病
第四話 行き倒れ
2025年5月20日 初版1刷発行
本文309ページ
文庫書き下ろし

『傾城の恋文 緋桜左膳よろず屋草紙(二)』
カバーデザイン:Fieldwork(岡田ひと實)
カバーイラスト:安楽岡美穂
あらすじ
天皇や女院に仕えていた者たちが、江戸で「よろず屋」を開業します。剣の遣い手・高槻左膳、陰陽師の家系出身・柏木右京、そして元女官のおちか。
彼らは、占いに傾倒する母の目を覚まさせてほしい、継母や姉から虐げられている妹を助けてほしい――といった、さまざまな「頼みごと」を請け負います。
密偵でもある3人に新たな密命が下されるなか、依頼を解決できるのか――。人気シリーズの待望の第2巻です。
(カバー裏の説明文より抜粋・編集)
ここに注目!
荒物屋「玄武」の主・高槻左膳は、一見浪人風ですが、真の名は高階左膳。実は朝廷から江戸に派遣された間諜「窺見(うかみ)」の一人です。
同じく「玄武」で占いを担当する柏木右京(本名:桂木右京)、そして左膳の妹と称するおちか(本名:蔭山周子)も、実は朝廷の命を受けた「窺見」であり、それぞれ陰陽師や元女官という出自を持っています。
物語は、この3人が八丁堀・幸町の荒物屋に身を寄せながら、江戸の市井の人々から持ち込まれる様々な悩みを解決し、あわせて密命も果たしていくという構成です。
背景には、儒学者・山県大弐や尊王思想家・藤井右門らが関わった「明和事件」も描かれており、歴史ファンにとっても見逃せない展開が盛り込まれています。
目次
第一話 占い師の格
第二話 灰かづきの祝言
第三話 花は紅
第四話 学問の勧め
2025年5月20日 初版1刷発行
本文298ページ
文庫書き下ろし

『秘す歌留多 上絵師 律の似面絵帖』
カバーイラスト:チユキクレア
カバーデザイン:荻窪裕司
あらすじ
律の悪阻(つわり)はようやく落ち着いてきたものの、これまでのように思うように仕事ができない日々が続いています。周囲に支えられながら、焦らず目の前のことに取り組む律。
そんなある日、師匠・今井から指南所の歌留多(かるた)を一新したいとの依頼を受けます。子どもたちにもそのことを伝えた翌日、律を訪ねてきたある男児が語った内容とは――。
ひたむきに生きる律の姿が心を打つ、人気シリーズ第11弾です。
(カバー裏の説明文より抜粋・編集)
ここに注目!
染物や着物に模様や絵を描く職人「上絵師(うわえし)」である律(りつ)を主人公にした、人気シリーズの第11巻です。
これまで仕事と恋の両立に悩んできた律ですが、本作では「上絵師」「妻」「葉茶屋の若おかみ」、そして「母」という四つの役割を担うようになります。
悪阻に悩まされる中でも、筆をとって描き続けようとする律の姿が印象的です。子ども向けに注文された鞠巾着を描きながら、母となることへの実感や、親心への共感がにじみ出ていきます。
さらに律には、もう一つ大切な役割があります。それは、定町廻り同心・広瀬保次郎の依頼を受け、得意の似面絵(似顔絵)を描くことです。律の絵が決め手となって事件が解決することもあり、捕物要素も本作の大きな魅力となっています。
今回はどのような事件に出会い、どんな人々と関わるのか――物語の展開に期待が膨らみます。
目次
第一章 兄弟子たち
第二章 初仕事
第三章 母の想い出 弐
第四章 秘す歌留多
2025年5月20日 初版1刷発行
本文358ページ
文庫書き下ろし

