スポンサーリンク

首斬り役人と人斬り志士、二人の友情を描く文学的な幕末小説

『花喰鳥のゆくえ 首斬り役人と人斬り志士』|安藤圭助|文芸社文庫

花喰鳥のゆくえ 首斬り役人と人斬り志士安藤圭助(安藤圭助)さんの長編幕末小説、『花喰鳥のゆくえ 首斬り役人と人斬り志士』(文芸社文庫)を紹介します。

本書は、第2回草思社×文芸社W出版賞の文芸社金賞を受賞した『ガキバラ』(2018年8月刊)を、改題して文庫化した作品です。

この賞は、『声に出して読みたい日本語』で知られる一般書の草思社と、商業出版のほかに流通出版や自費出版も手掛ける文芸社がこれからの新人の作家を発掘するために設けた賞で、それぞれ1作品ずつ金賞受賞作を選出するというもので、2022年8月末締め切りで第7回の募集をしていました。

出版分野が違う出版社同士と思いましたが、草思社は文芸社の子会社となっていたんですね。

人を斬ることを生業とする、豊前藩の首斬り役人の家に生まれた与太と、呉服商の次男坊として生まれた佳一。寺子屋の手習い時代から友である二人は、与太の家道場で剣の腕もともに磨いてきた。時は経ち、次第に世の中は混沌としていく。京都を中心として、徳川の世が大きく変わりつつあったのだ。そんな中、一人は家を継ぎ、愛する人を懸命に守ろうとし、もう一人は攘夷の思想に触発され、脱藩を決意する。別々の道を歩むことになった二人の運命は、どこに向かうのか。時代に翻弄されながらも幕末を懸命に生きる友情の物語。

(本書カバー裏の紹介文より)

コンテスト応募時および単行本刊行時のタイトルの『ガキバラ』は、豊日(豊前、豊後、日向)地方の方言をもとに、「無知で生意気な子供たち」の意。

似たタイトルに、中場利一さんの『バラガキ 土方歳三青春譜』があります。
「バラガキ」は茨のようなするどいトゲをもった悪童、触るとトゲで怪我をするような危ない者のことを言う武州のほうの言葉としています。

さて、物語は、豊後藩で首斬り役人をつとめる家に生まれた与太(よた)と、寺子屋での手習い時代からの友であり、呉服商の次男坊である佳一(かいち)、与太の家道場で一緒に剣を学んだ二人を中心に進みます。

与太には、幼馴染みで三つ下のさやという思いを寄せあう娘がいましました。ところが、二年前にさやは何者かに乱暴に遭い、心身を壊して正常に戻らず介護が必要な状態になってしまいました。

与太は、さやの母に「さやを嫁にくれちゃ」「俺がん責じゃ。俺が治す」と言って、赤子に退行したさやを家に引き取りました。

「俺はな、佳一。己こそ時代と、ちと思うちょるところがある」
「なんじゃそりゃ、与太。われ、神仏か何かか?」
「生き方の問題ちゃ。時代に呑まるんのもいいよ」
「呑まるんのんじゃねえちゃ、飛び込むんやら。安穏なぞ、仏坊主の宣う彼岸だけで十分じゃろ」
「安穏じゃねえんちゃ」
「ほななんか?」
「さやじゃ。あれを守りたい」
 
(『花喰鳥のゆくえ 首斬り役人と人斬り志士』 P.22より)

徳川の時代が大きく変わりつつある情勢がもたらす熱狂は、西国の豊前藩にも届き、佳一は動乱の爆心地、京へ一緒に行かないかと誘います。

しかし、既に土壇場を任され、罪人を斬っていた与太は、家業を継ぎ、愛するさやを守ることを理由に、佳一の申し出を断りました。

「おぬしらは梅と桜のようじゃな。形違えど、時期がくればどちらも見事に咲く。梅がなけりゃ桜が咲けばいい。桜がなけりゃ梅が咲けばいい。どちらも咲けば満華の美事じゃ。まあ、まだまだ弱っちいが、倒れても剣を放さぬはすでに立派じゃぞ」
 
(『花喰鳥のゆくえ 首斬り役人と人斬り志士』 P.86より)

かつて、剣を教わった与太の祖父に、梅と桜と呼ばれた二人の通は分かれました。
与太が見送る中、佳一は、同志の者ら四人と脱藩して京に上ります。

 ねむの木の遥か、遠奥に棚引く疎林が揃えて揺れた。
 疎林を通過した夜風は、夜中やぐらに直ちに届き、垂揺球儀の脇に置かれた書物を捲った。開いた頁に疎らに空いた、紙魚の噛痕が与太には水玉に見え、書を喰う生命もある世界の不思議を思った。
 
(『花喰鳥のゆくえ 首斬り役人と人斬り志士』 P.103より)

与太と佳一、それぞれの峻烈な青春を描いていきます。

漢字、それも三文字熟語を多用した、著者独自の情景描写と会話表現を重ねていくことで、彼らの行動は昇華され、文学性豊かな幕末小説になっていきます。
読了後に確かな爪痕を残す、趣きのある時代小説です。

花喰鳥のゆくえ 首斬り役人と人斬り志士

安藤圭助
文芸社・文芸社文庫
2022年8月15日初版第一刷発行

装画:ナカヤマ皐月
カバーデザイン:谷井淳一

●目次
一 飛星
二 番い
三 金闇
四 登壇
五 月蛍
六 追想
七 天文
八 猿轡
九 京夜
十 菫売り
十一 心蓋
十二 動乱
十三 牢獄
十四 花散る

本文234ページ

『ガキバラ』(文芸社・2018年8月刊)に、加筆修正し、改題したもの。

■Amazon.co.jp
『花喰鳥のゆくえ 首斬り役人と人斬り志士』(安藤圭助・文芸社文庫)
『バラガキ 土方歳三青春譜』Kindle晩(中場利一・講談社文庫)

安藤圭助|時代小説ガイド
安藤圭助|あんどうけいすけ|時代小説・作家 1981年、大分県生まれ。横浜国立大学卒業。大分県在住。 2018年、『ガキバラ』で第2回草思社・文芸社W賞文芸社金賞受賞し、デビュー。 2022年、単行本『ガキバラ』を改題した文庫『花喰...