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剣の達人の旗本と好奇心旺盛の妻、おしどり夫婦の捕物帳

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『おしどり探索帖 雨降って地固まる』|森山茂里|集英社文庫

おしどり探索帖 雨降って地固まる森山茂里(もりやましげり)さんの文庫書き下ろし時代小説、『おしどり探索帖 雨降って地固まる』(集英社文庫)を紹介します。

著書には、『百鬼夜行図』を描いた伝説の絵師・鳥山石燕と妖怪たちとの交遊を描いた『あやかし絵師』や『犬神の弟子』といった〈妖もの〉時代小説のほかに、「婿侍事件帳」「浅利又七郎熱血剣」などの剣豪を主人公にした痛快時代ものがあります。

本書は、剣術が得意な夫と与力の妹で好奇心の塊の妻が事件を追う、連作形式の5編を収録した夫婦捕物小説です。

小禄の旗本、星川光次郎は剣の達人。無役の身分を幸いと気ままに暮らす。北町奉行所与力の家に生まれた妻の芙美はそんな夫を心から信頼し、貧乏暮らしを楽しんでいる。ある晩、光次郎と芙美は辻斬りの現場に遭遇。斬った男は逃げ、襲われた旗本は不名誉な後ろ傷で死んだ。さらに旗本のお供の太鼓持ちまで辻斬りに遭って殺された。二人を調べると事件の裏に驚くべき真相が……。江戸随一のおしどり夫婦が活躍する探索帖。

(カバー帯の説明文より)

中西派一刀流の免許皆伝で、二百石の小禄の旗本、星川光次郎は、妻の芙美と、向島に住む伯父夫婦を訪ねた帰りの夜道、浅草の材木町で辻斬りに遭遇しました。

襲われたのは、太鼓持ちを共に茶屋遊びに行く途中の四十ぐらいの裕福な武士で、背後からの逆袈裟で絶命していました。

光次郎は曲者を追いますが、逃げられてしまいます。

二人は土地の岡っ引に怪しい夫婦として自身番に留め置かれましたが、同心の和田直太郎が現れて身元を保証したことで釈放されました。

「何でしょう、あの態度。聞くだけ聞いたら、どうぞ、お帰りください、なんて。あの斬られた武士は何者かしら? 金目当ての追剥? それとも怨恨?」
 夜道を歩きながら芙美は好奇心を抑えられなかった。
「これから調べるのだろう。判明しても、我々には教えてはくれないよ」
「いいわ。今度、実家に帰って、お兄様に聞くから」

(『おしどり探索帖 雨降って地固まる』P.22より)

芙美の兄倉田敬之進は、北町奉行所の吟味方与力で、光次郎と同じ歳の二十八歳で、昌平坂学問所で机を並べて学んだ仲。それが縁で芙美も光次郎と知り合って夫婦になりました。

本書では、芙美が吟味方与力の実家の力を借りて、捜査情報を引き出す一方で、光次郎は聞き込みと洞察力で事件の核心に迫り、夫婦の力を合わせた謎を解いていきます。

第2話の「犬も食わない」では、屋敷で小さな剣術道場と手習所を開いている、光次郎と芙美の教え子の一人、日本橋室町の茶問屋の倅・研吉が何者かにかどわかされた事件が描かれています。

心配になって、店を訪れた芙美と光次郎は、主から身代金百両を要求する脅し文が届いたことを告げられました。

「お願いがございます。わたくしどもの代わりに百両を柳森稲荷に届けて頂けないでしょう」
「わたしが?」
 光次郎は戸惑った。
「お武家さまなら、相手もなめた真似はしないと思います」
「わたしからもお願い申し上げます。お礼はいかようにもいたします。どうか百両と引き換えに、研吉を取り戻してください。

(『おしどり探索帖 雨降って地固まる』P.94より)

主夫婦から身代金を届ける役目を懇願され、その夜、光次郎は預かった袱紗に包んだ百両を懐に柳森稲荷に向かいました。ところが……。

事件に巻き込まれる光次郎と芙美が、一度は奇妙な出来事に混乱させながらも、複雑に入り組んだ謎を解き明かして、真相に近付いていく過程が楽しめる、夫婦捕物帳です。

とくに、第三話の「狙われた魚屋」は、その筋立てに捕物小説が隆盛した昭和の時代の作品のような面白さがありました。

江戸の風物や情景などの描写が楽しめて、その仲良しぶりに当てられてほっこりするような夫婦の謎解きで、気分をリフレッシュするのはいかがでしょうか。

おしどり探索帖 雨降って地固まる

森山茂里
早川書房・ハヤカワ時代ミステリ文庫
2022年10月15日発行

カバーイラスト:旭ハジメ
カバーデザイン:k2

●目次
第一話 武士はつらよ
第二話 犬も食わない
第三話 狙われた魚屋
第四話 お化け屋敷
第五話 不運な男

本文310ページ

文庫書き下ろし。

「小説すばる」2009年12月号、2010年3、6、9、12月号、2011年3、6、11月号に連載されたものを大幅に改稿したオリジナル文庫。

■Amazon.co.jp
『おしどり探索帖 雨降って地固まる』(森山茂里・ハヤカワ時代ミステリ文庫)

森山茂里|時代小説ガイド
森山茂里|もりやましげり|時代小説・作家 1959年生まれ。岡山県出身。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了。 時代小説SHOW 投稿記事 童子姿の齢六百二歳のあやかしが、日本橋小町娘と事件を解決|『犬神の弟子』 2016年2月8日 →...