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友に代わり定町廻りとなった裄沢に、危難が次々襲いかかる

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『北の御番所 反骨日録【三】 蝉時雨』|芝村凉也|双葉文庫

北の御番所 反骨日録【三】 蝉時雨芝村凉也(しばむらりょうや)さんの文庫書き下ろし時代小説、『北の御番所 反骨日録【三】 蝉時雨』(双葉文庫)をご恵贈いただきました。

本書の主人公、裄沢広二郎は、道理に合わなければ上役にも臆せずに物申す、北町奉行所の用部屋手附同心です。周囲からは「やさぐれ」とも評されています。

怪我で静養中の来合轟次郎に代わって、定町廻りのお役を勤めることになった裄沢広二郎。慣れない市中見廻りに足を棒にする日々が始まった。そんな折り、深川入船町でお上の御用を勤めていると言う亥太郎が、手札を頂戴したいと裄沢に声をかけてきた。強引で太々しい亥太郎に警戒心を抱いた裄沢は……。人気シリーズ第3弾。

(Amazonの紹介文より)

前作『雷鳴』で描かれた事件で、同僚で親友でもある来合轟次郎が怪我を負いお役を休まざるを得なくなったことから、裄沢はその代わりに定町廻りを勤めることとなりました。

「俺は来合が怪我を治して復帰するまでの代役だ。俺なりのやり口に変えようなんてことは少しも思っちゃいないから、来合の下でやっていたとおり、これまで同様に勤めてくれりゃあ、それでいい」
 無表情なままの男どもを前に、淡々と言葉をつなぐ。
「このことはお前さん方だけでなく、各町の番屋にも主だった見世にも言っとくし、それ以外の小さな見世とかだって町役人を通じてしっかり伝わるだろうから、安心して仕事に専心してくれ。(以下略)
 
(『北の御番所 反骨日録【三】 蝉時雨』 P.16より)

裄沢は、来合から引き合わされた本所・深川の御用聞きたちと対面する場で、着任の挨拶をしました。

内勤から慣れない町廻りを始めて、疲れて北町奉行所へ戻る途中の裄沢の前に、「裄沢様にごぜえやしょうか」と、町人姿のあまり人相のよくない四十男が声を掛けてきました。

「へえ、あっしは入船町の辺りに巣くっておりやす、亥太郎ってえケチな野郎で」
 入船町は深川も南の端のほう、富岡八幡宮の東に位置する町である。
「その、深川のケチな男が何の用だ」

(『北の御番所 反骨日録【三】 蝉時雨』 P.36より)

亥太郎は、自分はお上の御用のお手伝いをしているうちの一人で、ところを受け持つことになった裄沢からお手札を頂戴したいと願い出てきました。

廻り方同心が岡っ引きに渡す「手札」とは、所持している者の身元保証をするものであり、岡っ引きの側からすれば、お上の権威を振り回すことができる重宝な道具でありました。喉から手が出るほど欲しがる当たり前のお宝でした。

来合の代役として短期間のつとめと考える裄沢は、渡した手札が定町廻りから転じた後にどのように使われるか確かめることができないため、誰にも手札を渡すつもりはありませんでした。

そんな裄沢に、町廻り同心となったばかりで甘く見たのか、亥太郎は執拗に絡んできました……。

着任早々、裄沢は曖昧宿の捕り物や、本所の先の代官所の縄張りでの殺人、金蔵に入るまで盗みに気づかないような凄腕の盗賊など、次々と事件に遭遇し、その身にも危難が襲いかかります。

本人が望んだわけではなく、奉行の一声で、内勤から花形の定町廻りに役目が変わった裄沢に対して、奉行所内で快く思わない面々もいて、裄沢の周りには不穏な空気がありました。

捕物劇を楽しむとともに、複雑な奉行所内の人間模様も興趣を深めていく、奉行所小説シリーズの第3弾。読み味が良く、癖になる面白さで、次巻が待ち遠しくてなりません。

北の御番所 反骨日録【三】 蝉時雨

芝村凉也
双葉社・双葉文庫
2021年12月19日第1刷発行

カバーデザイン・イラスト:遠藤拓人

●目次
第一話 着任挨拶
第二話 畑の死人
第三話 怪盗
第四話 蝉時雨

本文332ページ

文庫書き下ろし。

■Amazon.co.jp

『北の御番所 反骨日録【一】 春の雪』(芝村凉也・双葉文庫)(第1作)
『北の御番所 反骨日録【二】 雷鳴』(芝村凉也・双葉文庫)(第2作)
『北の御番所 反骨日録【三】 蝉時雨』(芝村凉也・双葉文庫)(第3作)

芝村凉也|時代小説ガイド
芝村凉也|しばむらりょうや|時代小説・作家 1961年宮城県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。 2011年、「返り忠兵衛 江戸見聞」シリーズにてデビュー。 時代小説SHOW 投稿記事 『迷い熊帰る 長屋道場騒動記(一)』|心優しき巨躯の剣...