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物凄い剣豪たちのバトル、夢枕獏版「大菩薩峠」

ヤマンタカ 上 大菩薩峠血風録夢枕獏さんの巨編時代小説、『ヤマンタカ 大菩薩峠血風録』上・下巻(角川文庫)を入手しました。

未完の大作(ちくま文庫版では全20巻からなる)である、中里介山さんの『大菩薩峠』に、格闘小説の第一人者である夢枕獏さんが挑んだ、全く新しい剣豪小説です。

時は幕末。。府中から日野にかけての甲州街道沿いに辻斬りが出現。一方、大菩薩峠で、深編笠の武士によって老巡礼が惨殺される。4年に1度開かれる奉納試合と関係があるとみた土方歳三は、自分もその試合に出るため天然理心流に入門する。出場するのは「音無しの構え」で知られる剣客・机竜之助、甲源一刀流の師範・宇津木文之丞ら猛者たち。そしてついに奉納試合の日が。人間の欲望や本能を突きつけられる。熱き剣豪小説。
(上巻カバー裏紹介より)

本書でまずグッとくるのは、主人公が机竜之助でなく土方歳三だということです。上巻の表紙装画(崗田屋愉一さんの画もかっこいい)のマッチョな漢(おとこ)が歳三です。

 漢が夜道を歩いている。
 惚れぼれするほど大きな漢であった。
 丈六尺に近い。
 後ろから、その歩く姿を見れば、山が動くようである。
 肩幅が広く、胸が分厚い。
 その右肩に、剣を担いでいる。
 
(『ヤマンタカ 上 大菩薩峠血風録』P.8より)

そこには、写真に残る、洗練された優男然とした歳三はいません。武州日野宿の石田村で薬の行商をしながら、虎視眈々と侍になる機会をうかがっている獰猛な漢がいました。

 山路を、ひとりの武士が歩いている。
 深編笠で顔を隠しているが、時おりちらりちらりと覗く口元や顎のあたりを見ると、歳はまだ、三十を超えてはいまいと思われた。黒の着流しで、定紋は放れ駒。博多の帯を締めている。朱微塵、海老鞘の刀脇差を差していた。
 
(『ヤマンタカ 上 大菩薩峠血風録』P.28より)

「大菩薩峠」の主人公机竜之助(下巻の表紙装画)も登場し、大菩薩峠の妙見菩薩のお堂の前で、老巡礼と出会います……。

タイトルの【ヤマンタカ】とは、梵名ヤマーンタカ(yamantaka)で、地獄の大王閻魔を屠る者という意味。仏教の忿怒尊にあたり、日本では大威徳明王と呼ばれています。チベットでは、その本地は文殊菩薩であり、その化身した姿がこのヤマンタカであるとされています。

著者はあとがきで、「地獄の閻魔を殺すほどの力を持った尊神の実体が菩薩――最凶にして菩薩」というヤマンタカをタイトルにした理由を明かしています。

 おもしろいぞ、この本は。
 腰をぬかすなよ。
 
(『ヤマンタカ 下 大菩薩峠血風録』あとがき P.490より)

上下巻合計で1000ページを超える巨編でありながら、一気読みできる面白さとパワーを備えた、全く新しい剣豪小説を堪能したいと思います。

●目次
上巻
序の巻 外道の贄
巻の一 大菩薩峠
巻の二 天然理心流
巻の三 日野の渡し
巻の四 日野宿争乱
巻の五 怪士の剣
巻の六 御岳山
巻の七 因縁菩薩

下巻
巻の八 魔性の剣
巻の九 異形菩薩
巻の十 試合前夜
巻の十一 奉納試合
巻の十二 秘剣の秘密
巻の十三 大菩薩峠
転の巻 大乗の剣
あとがき
解説 鈴木敏夫

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『ヤマンタカ 上 大菩薩峠血風録』(夢枕獏・角川文庫)
『ヤマンタカ 下 大菩薩峠血風録』(夢枕獏・角川文庫)

夢枕獏|時代小説ガイド
夢枕獏|ゆめまくらばく|作家 1951年、小田原生まれ。 1989年、「上弦の月を喰べる獅子」で第10回日本SF大賞を受賞。 1998年、「神々の山嶺」で第11回柴田練三郎賞を受賞。 ■時代小説SHOW 投稿記事 ...