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永代橋崩落で妻子を失うも、江戸の繁栄に生涯を捧げた風雲児

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『商う狼 江戸商人杉本茂十郎』

商う狼 江戸商人杉本茂十郎永井紗耶子(ながいさやこ)さんの長編歴史時代小説、『商う狼 江戸商人杉本茂十郎』(新潮社)を入手しました。

著者は、プロフィールによると、新聞社の記者を経て、フリーランスのライターとなり、2010年、「恋の手本となりにけり」(文庫刊行時に『絡繰り心中 部屋住み遠山金四郎』に改題)で第11回小学館文庫小説賞を受賞してデビューしました。

『福を届けよ 日本橋紙問屋商い心得』『横濱王』のような、歴史とビジネスを組み合わせた時代経済小説も得意とされています。

甲斐の農家から江戸の飛脚問屋の養子となった茂十郎は、十組問屋との紛争解決で名を揚げた矢先に永代橋の崩落事故で妻と跡取り息子を失う。その悲しみを糧に、三橋会所頭取となり橋の運営に要する莫大な費用を集め、衰退した菱垣廻船を立て直して流通を一新。疲弊した慣例を次々と打ち破り、江戸の繁栄に生涯を捧げた改革者に迫る傑作歴史小説。

(本書カバー帯の紹介文より)

本書の主人公は、江戸後期の文化年間(1804年から1818年)に活躍した、実在の商人杉本茂十郎です。

茂十郎は甲斐国の農家に生まれ、十八歳で飛脚問屋大坂屋に奉公し、婿入りして九代目の主人茂兵衛となりました。

茂兵衛は、江戸の十組問屋(とくみどいや)が永代橋、新大橋、大川(吾妻橋)の3橋の架け替え修繕の請負を行うための事務所、三橋会所(さんきょうかいしょ)を作り、その頭取となりました。

「では、憚りながら私からもお尋ね申し上げます。何故に今、毛充狼のことをお知りになりたいのでございましょう。確か、御殿様にもお目にかかったことがあったろうと存じますが」
「確かに会ったことはある。しかし今、改めて政を為すに当たり、江戸市中を見回せば、そこここにあの獣の爪痕が残る。されど、何を為した者であったのかを尋ねるも、誰も答えることができぬ。あれは賄賂商人、山師、不届き者、金の亡者……次から次へと湧いて出るのは悪口雑言。果たしてそれは真であるのか。であるならば、何故にこの江戸の市中にはあの者の爪痕がかように残っているのか」

(『商う狼 江戸商人杉本茂十郎』 P.9より)

本書の「序」で、天保の改革を進める老中首座の水野忠邦は、寛政の改革時に札差で勘定所御用達として大きな力を持っていた商人の堤弥三郎を召し出して、市井でかつて「毛充狼(もうじゅうろう)」と呼ばれた、杉本茂十郎(大坂屋茂兵衛)とは何者だったか、問いただします。

弥三郎に回想として、茂十郎の生涯が詳らかになっていきます。

それは、商いの道理に基づく、江戸の商売の“最適化”ともいうべきビジネス改革でした。

また、文化四年(1807)八月、永代橋崩落事故で、茂十郎は愛妻と跡取り息子を亡くしました。その悲しみを糧に、永代橋の架け替えに奔走していきます。

まだ読み始めたばかりですが、茂十郎が何故に人々から“毛充狼”と呼ばれるようになったのか、大いに気になります。

そして忠邦が“毛充狼”のことを知りたがった意図は……。

十組問屋、菱垣廻船と樽廻船、三橋会所、町年寄、冥加金など、本書を読むと江戸後期の経済の仕組みが丁寧に説明されていて、勉強にもなりそうです。

商う狼 江戸商人杉本茂十郎

永井紗耶子
新潮社
2020年6月15日発行

書き下ろし

装画:宇野信哉
装幀:新潮社装幀室

●目次

一 駆ける
二 哭く
三 唸る
四 嗤う
五 牙剥く

本文297ページ

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『商う狼 江戸商人杉本茂十郎』(永井紗耶子・新潮社)
『絡繰り心中 部屋住み遠山金四郎』(永井紗耶子・小学館文庫)
『福を届けよ 日本橋紙問屋商い心得』(永井紗耶子・小学館文庫)
『横濱王』(永井紗耶子・小学館文庫)

永井紗耶子|時代小説ガイド
永井紗耶子|ながいさやこ|時代小説・作家 1977年、神奈川県生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。 新聞記者を経て、フリーランスライターとして活躍。 2010年、「恋の手本となりにけり」(2014年、文庫刊行時に『恋の手本となりにけり』と改題)...