失脚した田沼意次の甥、竜之介が将軍家斉の奥小姓に

『奥小姓裏始末(1) 斬るは主命』

奥小姓裏始末(1) 斬るは主命青田圭一さんの文庫書き下ろし時代小説、『奥小姓裏始末(1) 斬るは主命』(二見時代小説文庫)を入手しました。

失脚した田沼意次の甥で他家に養子入りした風見竜之介が、将軍家斉の奥小姓に抜擢され、将軍家に害をなす輩を人知れず駆逐する、痛快時代小説の第1作です。

文庫カバー袖の著者プロフィールに、「高校卒業後、通勤電車で時代小説を読むことを習慣にして40年、好きが高じて作品執筆に取り組み始め、時代小説を副業にしたいと決意。習作を重ね、本作品でデビュー」と記されていました。

二見時代小説文庫では、どういう経緯から、新人作家をデビューさせたのか気になりながらも、本書を手に取りました。

竜之介さん、うちの婿にならんかね――。故あって神田川の河岸で真剣勝負に及び、腿を傷つけた田沼竜之介を屋敷で手当てした、小納戸の風見多門のひとり娘・弓香。多門は世間が何といおうと田沼びいき。隠居した多門の後を継ぎ、田沼改め風見竜之介として小納戸に一年、その後、格上の小姓に抜擢され、江戸城中奥で将軍の御側近くに仕える立場となった竜之介は……。
(本書カバー裏紹介より)

田沼意次が悪政で私腹を肥やしたとされて失脚した後、その縁者と支持者は幕閣から一掃され、恩顧を受けた諸役人もことごとく御役御免にされました。意次の異母弟で、奥右筆をつとめていた竜之介の父親も無役となり、失意の余りを病を得て命を落とし、妻もほどなく亡くなりました。

両親を失った竜之介は自棄になり、死に場所を求めて、旗本や御家人を襲う直参を襲ってていた無頼の者たちを逆に狩るような無謀なことを行っている時に、男装の女剣客弓香と真剣で立ち合うことになりました。

「竜之介さん、その傷、勝負を切り上げるためにわざと受けなすったな」
「滅相もない。拙者が未熟ゆえにござる」
「娘はともかく、わしの目はごまかせんよ。これでも御役に就いて以来、槍の風見と呼ばれておるでな。かすり傷でも負うてやらねば、あのじゃじゃ馬が退くまいと察してくれたんじゃろ」
「……お見それ致した。ご推察の通りにござる」
「流石じゃな」
 多門は苦笑交じりに言った。

(『奥小姓裏始末(1) 斬るは主命』P.25より)

真剣での立ち合いで傷を負った竜之介は、弓香から傷の手当てを受けることになり、三百石取りの旗本風見多門の屋敷に連れて行かれました。

そこで、弓香の父で、小納戸をつとめる多門と引き合わされ、いきなり婿入りの話を勧められました。

多門は年が明ければ七十歳になり隠居を考える年になりますが、一人娘の弓香は少女の頃から武術の修行に熱中し、鬼姫の異名を取る男勝りで、自分より強い殿御でなければ縁談に応じられないと豪語する始末で、このままでは風見の家名が絶えてしまうと頭を悩ませていました。

年が明けた天明八年、竜之介は弓香と祝言を挙げて風見家に婿入りし、隠居した多門の後を継ぎ、田沼改め風見竜之介として小納戸の御用に就きました。一年後、小納戸より格上の小姓に抜擢され、江戸城中奥で将軍の御側近くに仕えることに。

天明から寛政に元号が改められた、寛政元年(1789)三月の末、風見竜之介が新参の奥小姓(おくごしょう)として仕え、第十一代将軍徳川家斉にお目見えするところから、本編は始まります。

江戸城内の様子や幕臣の役職、武家のしきたりの描写があったり、長谷川平蔵の名前が出てきたり、長年の時代小説ファンということをうなずけるところがありました。

物語の鍵を握る人物として、高貴な尼僧姿で大奥に出入りする、美貌の源氏読み、咲夜(さくや)の存在が気になります。

源氏読みとは、源氏物語の読解に長じた者のこと。咲夜は、天明八年の京都大火で被災した御所の再建を仰せつかった老中松平越中守定信が上洛した際に見出して江戸に呼び寄せて、大奥に日参して講義をすることを依頼していました。

家康公が認め、将軍家と縁の深い源氏物語を学ぶことで、浪費に走るばかりの大奥の女たちに知性と教養を見つけさせるためで、幕政改革の一端でした。

奥小姓裏始末(1) 斬るは主命

祥伝社 二見時代小説文庫
2020年7月25日初版発行

文庫書き下ろし

カバーイラスト:蓬田やすひろ
カバーデザイン:ヤマシタツトム(ヤマシタデザインルーム)

●目次
序章 手の合う二人
第一章 疑惑の奥小姓
第二章 濡れ衣を断て
第三章 復讐者の挑戦
第四章 奪われた希望
第五章 宝を取り戻せ
第六章 葵の覆面剣士

本文377ージ

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『奥小姓裏始末(1) 斬るは主命』(青田圭一・二見時代小説文庫)

青田圭一|時代小説ガイド
青田圭一|あおたけいいち|時代小説・作家 秋田県秋田市生まれ。東京在住。 2020年、『斬るは主命 奥小姓裏始末1』で時代小説デビュー。 ■時代小説SHOW 投稿記事 amzn_assoc_ad_typ...