『大友二階崩れ』

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大友家への「義」一筋の兄と、姫への一途な「愛」を貫く弟

大友二階崩れ日本経済新聞出版社から刊行された、赤神諒(あかがみりょう)さんの戦国時代小説、『大友二階崩れ』を紹介します。

天文十九年(一五五〇)、九州豊後の戦国大名、大友氏に出来した政変「二階崩れの変」。時の当主・大友義鑑が愛妾の子への世継ぎのため、二十一歳の長子・義鎮(後の大友宗麟)を廃嫡せんとし、家臣たちが義鑑派と義鎮派に分裂、熾烈なお家騒動へと発展した。

著者は、2017年、「義と愛と」で第九回日経小説大賞を受賞し作家デビュー。単行本の刊行に際して、『大友二階崩れ』と改題しています。

ちなみに、時代小説作家の高橋直樹さんの中篇に「大友二階崩れ」があります。同タイトルで単行本で刊行され、文庫化に際して『戦国繚乱』(文春文庫)に改題しています。

――左近! 左近はおるか? 大友家の一大事ぞ!
 天文十九年(一五五〇)二月、豊後(現在の大分県)の国都、府内。
 去ろうとする冬があわてて逃げ出し、来ようとする春さえ思い直して踵を返しそうな雷声である。ほとなく屋敷の廊下が抜けそうなほど荒々しく踏む音が聞こえてきた。

(『大友二階崩れ』P.5より)

本書は、大友義鑑の重臣吉弘左近鑑理(よしひろさこんあきただ)のもとに、年来の盟友斎藤長実が来訪するところから始まります。

主君義鑑が嫡男の五郎(義鎮)を廃嫡して、愛妾の子塩市丸を元服させて跡を継がせると腹積もりです。そのために、廃嫡に反対する、長実ら腹心の家臣四人衆を今夕大友館に呼ぶといいます。

鑑理の父吉弘氏直は、大友家が宿敵大内家と戦った勢場ヶ原の決戦で、義鑑を守る盾となり、全身に矢を浴びて戦死しました。その死に報いるため、義鑑は氏直の遺児鑑理を重用し、家臣ながら末娘の静とも娶せました。義鑑は鑑理の義理の父でもあります。

鑑理は義鑑への忠節を全うする義に生き甲斐を感じていました。鑑理が四人衆の筆頭の長実とともに衷心から解けば、義鑑が世継ぎの件を翻意する可能性も皆無ではないと信じていました。

「いまさら五郎様を廃嫡すれば、大友は真っ二つに割れましょう。大内への義理もございまする。赤子にもわかる道理なれば、軍師殿とてとうにお見通しのはず」
「むろんじゃ。謀もなく廃嫡すれば、多くの血が流れる。ゆえに石宗は最も傷の少ない策を立てた。この大役を果たしうる者、吉弘左近をおいてなしと申しておったぞ。こたびは特に隠密を要するゆえ、余の腹心だけで万事進めておる」
 
(『大友二階崩れ』P.15より)

ところが、主君のために諌める鑑理に、義鑑は五郎を討つように命じます。そして、義鎮の廃嫡に反対した斎藤義実を斬って、忠義の証を見せるように主命が与えられます。友情と主君への「義」の板挟みになり、鑑理はある決心をし、弟の吉弘右近鑑広とある行動を起こします。

「左京亮、小次郎。父上、母上のもとへ参りますぞ。支度はよろしいか?」
「待て! 待たんか! 生きよ!」
 必死で止めようとする鑑広に、少女は叫んだ。
「生くるより死んで、末代まで祟ってやるわ!」
 星野一族にとっては、家族でともに死ぬるほうが幸せであるやも知れぬ。が、鑑広は少女を生かしたかった。

(『大友二階崩れ』P.120より)

二階崩れの変から約二十年前。吉弘右近鑑広は兄の鑑理とともに、大友家に反旗を翻した筑後生葉郡を領する星野親忠との戦いに初陣として参加しました。鑑理が二十歳、鑑広は十五歳でした。

鑑広は生葉城を守る武将で親忠の叔父、星野弾正少弼実親を討つ大手柄を上げました。そして、城内で身分ある者と思われる少女と出会いました。実親の娘・楓です。

楓に一目ぼれした鑑広は、自刃しようとした楓に、我を恨み、生き延びて討ってみないかと話しかけて二人の弟の助命を約束します。

「兄者。吉弘は今、生か滅か、大きな岐れ道に立っておる」
 鑑理はゆっくりと首を振ると、毅然と応じた。
「わがゆくてに道は岐れておらぬず、右近。わしにはただ、大きな一本道しか見えぬ」

(『大友二階崩れ』P.167より)

二階崩れの変を機に吉弘家は、先主への義を尽くす鑑理の決断により、大友家での立場はどんどん悪くなっていきます。

出会ってから二十年、楓への愛を貫き続ける鑑広は、吉弘家が滅びようと宗家に弓を引くは義にあらずという鑑理と対立します。

本書の読みどころは、鑑理の「義」と鑑広の「愛」との対比にあります。そして、二人は、もっとも大切にするものを違えながらも、共に起死回生の戦いに臨みます。

戦いの描写が臨場感豊かに描かれていて、魂を揺すぶらせます。

さて、本書では、脇役として魅力的な人物が登場します。

一人は、鑑理の家臣の背戸口紹兵衛です。諸国を放浪し、大友軍師角隈石宗の紹介で、数カ月前に家臣になったばかりの流れ者。

そしてもう一人が、大友随一の名将戸次鑑連(べつきあきつら)。のちに立花道雪の名で知られる鑑連は、戦上手で鬼と恐れられていました。

本書で俄然、大友家に興味が湧いてきました。
著者の第2作で、戸次鑑連の家臣を主人公に描いた、『大友の聖将(ヘラクレス)』も読んでみたくなりました。

◎書誌データ
『大友二階崩れ』
出版:日本経済新聞出版社
著者:赤神諒
※赤神諒さんの「神」は、「示」の扁に「申」の旁の「神」が正しい表記です。

装幀:芦澤泰偉
装画:大竹彩奈

第一刷:2018年2月20日
1600円+税
278ページ

●目次
第一章 大友二階崩れ
 一、大友館
 二、主命
 三、貴船城
 四、戸次川
 五、先主の遺臣
 六、二人の軍師
第二章 天まで届く倖せ
 七、星野谷
 八、天念寺
第三章 一本道
 九、比翼の鳥
 十、義と愛と
第四章 反転
 十一、初めての嘘
 十二、誰がために
第五章 鑑連の手土産
 十三、秋百舌鳥
 十四、義は何処にありや

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『大友二階崩れ』(赤神諒・日本経済新聞出版社)
『大友の聖将(ヘラクレス)』(赤神諒・角川春樹事務所)