脇役たちに光を当て、新選組の世界が広がる

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木内昇さんの『新選組裏表録 地虫鳴く』を読みました。本書は、新選組では脇役というかチョイ役の扱いがほとんどの3人の人物を語り手として物語が進みます。

一人目は、一度新選組を脱退しながら、元治二年に復帰、その後、伊東甲子太郎側についた伍長の阿部十郎。後に近藤勇を襲撃した人物として知られています。

この作品での阿部の描かれ方が秀逸。

二人目は、同じく伊東側についた伍長の篠原秦之進。彼の目を通した伊東とその実弟の三木三郎の描かれ方がまた、興味深いです。実はこの物語を読んで初めて、伊東側に共感をもつことができました。

そして、三人目が新選組で諸士取調役兼監察の尾形俊太郎。新選組の監察方といえば、山崎蒸と『壬生義士伝』で一躍ヒーローとなった吉村貫一郎が有名ですが、役職では二人の上に尾形が立っています。その割りに地味な存在だったのですが、その地味さ持ち味で、近藤派と伊東派のほどよいバランサーになっています。

土方歳三や沖田総司ら試衛館道場派の隊士たちが新選組の中で陽の当たる場所にいる存在としたら、その他大勢である地虫のような存在の隊士たちの声を拾い、丹念に描くことで、新選組の世界を広げてくれた感じがします。伊東側や第3極の視点から、新選組を見ることができ、とてもスリリングで面白い作品でした。

■目次
明治三十二年六月 東京
第1章 流転
第2章 迷妄
第3章 漂失
第4章 振起
第5章 自走
明治四年十二月 会津

解説 橋本紀子

『新選組裏表録 地虫鳴く』(しんせんぐみうらうえろく・じむしなく)
著者:木内昇(きうちのぼり)
カバーデザイン:常松靖史(TUNE)
装画:末房志野

集英社文庫
819円+税
577ページ

時代:元治二年(1865年)正月

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