京を舞台にした時代小説で去り行く夏の思い出に

先週、夏休みをとって京都に遊びに行ってきた。「大人の修学旅行」をテーマに二泊三日の旅行で、京都を代表する観光名所を見て美味しいものを食べた。京都は何度か泊まったことがあったが、神社仏閣を見たのは中学校の修学旅行以来だったので、面白かった。一日は大津で石山寺や三井寺などを観光した。

澤田ふじ子さんの時代小説を読むと、登場人物たちが京と大津の間を行き来するシーンがよく出てくる。実際に、山科駅から京阪電車で浜大津に行くと、短い道中でのその地形の変化とともに距離の近さを感じる。

そんなわけで、旅行中は澤田ふじ子さんの「公事宿事件書留帳」シリーズを読んでいた。京・大宮姉小路にある公事宿(くじやど)・鯉屋を舞台に繰り広げられる連作形式の市井人情時代小説。主人公は、京都東町奉行所同心組頭の家に嫡男として生まれながら、なさぬ仲の弟に家督を譲るために家を出て、鯉屋に居候する・田村菊太郎。

公事宿は、公事(民事訴訟)に在所からやってくる人を泊め、不慣れな公事の手助けをしたり、民事の示談をまとめたりする、宿屋兼法律事務所の役割を担う。そのため、このシリーズでは毎話さまざまな事件が描かれる。

2009年6月現在、シリーズ15作目まで文庫化されて刊行されている。『比丘尼茶碗(びくにぢゃわん)』は第12作。「お婆の斧」「吉凶の餅」「比丘尼茶碗」「馬盗人」「大黒さまが飛んだ」「鬼婆」の六編を収録。

比丘尼茶碗―公事宿事件書留帳〈12〉 (幻冬舎文庫)

比丘尼茶碗―公事宿事件書留帳〈12〉 (幻冬舎文庫)

長年連れ添った夫を斧で撲りつけた老婆を描いた「お婆の斧」。人気のお餅を開発した菓子職人が登場する「吉凶の餅」など、菊太郎や鯉屋の面々が事件を解決する捕物小説タイプの話のほかに、京の市井で暮らす人たちの人情やその人情に触れて更正する人物を描いた話も少なくない。とくに後者について、読み終わった後に快い感動を残す。

大津の馬子が仕事が一段落ついて仲間と立ち寄った居酒屋で愛馬を盗まれてしまう「馬盗人」は、生活の糧を失いそうになる男を描きながら、彼を助ける周囲の人たちの厚い人情が見られて、その結末とともに印象に残る。ここでは菊太郎も脇役の一人である。

また、「鬼婆」では、描き方によってはドロドロとした愛憎劇にもなりそうなところ、向日性のヒロインの登場により、スカッとした話になっている。

表題作「比丘尼茶碗」では、菊太郎の父・田村次右衛門と鯉屋の隠居・宗琳の年寄二人組が、菊太郎と鯉屋の主人・源十郎に相談することなく、年寄の冷や水と感じながらも、事件解決に乗り出す話。次右衛門が活躍するのはシリーズ中でこれが初めて。

おすすめ度:★★★★