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ペット、縁談、幽霊騒ぎ…、今日も泣き虫先生は大忙し

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手習い所 純情控帳 泣き虫先生、幽霊を退治する誉田龍一(ほんだりゅういち)さんの文庫書き下ろし時代小説、『手習い所 純情控帳 泣き虫先生、幽霊を退治する』が双葉文庫より刊行されました。
ちょっとしたことにすぐ感動して涙を見せることから、「泣き虫先生」と呼ばれる、手習い所の新米・師匠の三好小次郎が活躍する人情時代シリーズ第2作です。

本所石原町の「刀林寺」住職・諾庵に請われるまま手習い所「長楽堂」の先生になった小次郎。武士なのに涙もろくて、子供たちから「泣き虫先生」と呼ばれてすっかり人気者になった。
小次郎同様に、諾庵を頼り長崎から江戸へ上がってきて、寺の持ち物である小さな家を借りて住んでいる、動物専門の医者・お蘭。そのお蘭が虐待に遭って怪我をしている子犬を助けた。諾庵のかつての教え子であり、長楽堂に出入りをする南町奉行所同心・小山鉄五郎によると、本所、深川界隈では動物いじめが多いという。
そんな中で高価な飼い犬・狆の飼い主である、大店のおかみさんから愛犬がかどわかしに遭い、小次郎らが行方を追うことになった……。

一話完結の連作形式で、今巻では、ペットの虐待事件、長楽堂のマドンナであるお近の縁談話、子供たちのいじめと恐喝事件、幽霊騒ぎと、小次郎の周りで事件が次々と起こり、大忙しです。

小次郎は、持ち前の明晰な頭脳と洞察力で事件の真相に迫りますが、ユニークな武器は「涙」です。ちょっとしたことにすぐに感動して、涙を流すことで、事件の鍵を握る人物の心を動かし、解決の糸口となる言動を引き出します。

「塵劫記(じんこうき)なんかよりも、『商売往来』を教えて欲しいんだがな……」
 塵劫記は和算の書であり、商売往来は商人が使う言葉の読み書きと意味を教えるための書物である。
(『手習い所 純情控帳 泣き虫先生、幽霊を退治する』P.10より)

先生としては、『塵劫記』が一番得意で、子供たちは読み書きだけでなく、算術が必要と説きます。

本書の中で、一斗(約18リットル、十升)桶にいっぱい入った油を、七升と三升の枡を使って、一斗桶と七升枡に、それぞれ五升ずつ分けるにはどうするかという、『塵劫記』からの問題を子供たちに出題します。
「油分け算」と呼ばれるよく知られた和算の問題です。

ほかにどんな和算の問題を取り上げているのか興味を持ち、『塵劫記』が岩波文庫から出ていることを知り、入手することにしました。

小次郎の涙だけでなく、物語全編を通して、子供たちをはじめ登場人物たちのユーモラスなやり取りが楽しい人情時代シリーズです。

■Amazon.co.jp
『手習い所 純情控帳 泣き虫先生、江戸にあらわる』(第1作)
『手習い所 純情控帳 泣き虫先生、幽霊を退治する』(第2作)
『塵劫記』(吉田光由著・岩波文庫)