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凄腕剣士・じゃが太郎兵衛の痛快な時代アクションが炸裂

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『素浪人無惨帖』|島田一男|春陽文庫

素浪人無惨帖今回は、時代小説文庫の老舗である、春陽文庫から復刊された、島田一男(しまだかずお)さんの『素浪人無惨帖』を紹介します。

京都市出身の著者は、「満洲日報」の従軍記者を経て、戦後にその経験を生かして、新聞記者ものの小説を執筆。1951年には、「社会部記者」「風船魔」で第4回探偵作家クラブ賞短編賞を受賞。また、NHKドラマ「事件記者」の脚本も8年間担当されました。推理小説を中心に、時代小説、怪奇小説など幅広く活躍され、1996年(平成8年)に亡くなられました。

時代小説では、「菊太郎事件控」「江戸の旋風」などのシリーズがあり、その多くは春陽文庫で刊行されていました。今回、1983年11月に春陽文庫から刊行された本書『素浪人無惨帖』(初出は1959年で、何度か刊行される)、そのときと同じ表紙装画で復刊されたことは、まことに喜ばしい限りです。

時は徳川将軍家斉の頃。両国の南京出刃打の見せ物小屋で、犠牲になろうとした娘を助けた奇妙な男がいた。武士にしては異様な姿――おどろくほど長い無反りの大刀一本だけを落し差し、黒紋付きの着流しに南蛮渡りの黒ラシャ生地の陣羽織のようなものを羽織っている。目鼻立ちのきっぱりとした顔に、切り下げ髪に束ねた髷の根元を紫色のひもで大きく蝶結び――その男の名は、じゃが太郎兵衛! 剣の強さはこの上なく、ひとたび抜けば瞬時に倒れる無双ぶり。南蛮刀法居合い斬りが冴え渡り、世を荒らす悪人どもを懲らす痛快時代アクション!

(『素浪人無惨帖』(春陽文庫)Amazonの内容紹介より)

江戸両国の掛け小屋で、座頭水木都賀太夫の南京出刃打ちの曲芸が行われていました。舞台下手の戸板の前に立ち的となるは十七、八の武家娘。都賀太夫の出刃が的に当たれば二十両が支払われるということ、娘は飛び入りでの参加です。

鋭い出刃包丁が一本、娘の髷すれすれに戸板へ突き刺さります。二投目は雌蝶雄蝶の舞いという技に入り、出刃が娘の右ののどわきへ突き刺さりました。

「ただいまのが雌蝶だよ。つづいて、左側へ雄蝶が飛びまーす……」
 口上につれて、都賀太夫の手が上がった。
「えーいッ!」
 三度目の気合い……。
 ぴゅっと出刃が手を離れた。
 が……、かちっ……と、出刃は舞台の真上で跳ね上がると、ずしっと叩き落されていた。

(『素浪人無惨帖』「素浪人無惨帖」P.10より)

邪魔をしたのは、上野寛永寺の輪王寺宮のもとにも出入りをする謎の浪人、じゃが太郎兵衛でした。娘は、下谷竹町の裏店に住む、浪人並木宮内の娘、桐江、父の眼病を治すため二十両が必要で、わざと出刃に当たり死ぬ気でした。

じゃが太郎兵衛が娘が死ぬ気だと悟ったのは、小屋の前で呼び込みの男が「二十両」という言葉に、きっと振り返った娘の顔に殺気に似たものを見たからでした。

桐江のために、二十両もの大金を調達したり、ちゃっかりと都賀太夫の家に居候したり、する一方で、南蛮刀法居合い斬りで、一瞬のうちに敵を斬ったりと、じゃが太郎兵衛の行動は謎がいっぱいです。

 男の首が、三、四尺上でわめいた。首を失った片肌脱ぎの体が、とんとんとんと二、三歩あるいてぶっ倒れた。
「わかったか? 南蛮刀法逆さ車の居合い斬りだ。来る気があるか?」

 そういうじゃが太郎兵衛は、長刀をずいっと右手で前へ伸ばし、左手は後ろに、腰を落とした奇妙な構えを示している。

(『素浪人無惨帖』「素浪人無惨帖」P.33より)

水野出羽守ら将軍の寵臣となって政事を私し、粗悪な小判を乱造し、万民を窮乏の底へ追い落とす、水野出羽守らをないしょ節で歌い揶揄する千年坊寝太郎が御用聞きの土手金に引っ立てられて奉行所に連れていかれて、なんの調べもなく死罪獄門ときまり、首を斬られてしまいました。

獄門台に乗せられた寝太郎の首を盗み出して公儀隠密の忍者に囲まれ窮地に陥っていた、寝太郎の娘・お香代を、じゃが太郎兵衛は助けました。すると、その千年坊の首包みを買おうと、田沼主殿頭の娘、万寿院市姫が現れます。敵なのでしょうか? 味方なのでしょうか?

千年坊寝太郎は、元田沼主殿頭のお抱え医師で、その供養のつもりで、水野出羽守、中野石翁、将軍家斉の愛妾お美代の方、その父智泉院日道の悪事の数々をないしょ節にして歌っていました。

語尾に「剣」が付く12の各章ごとに、じゃが太郎兵衛の南蛮刀法が楽しめる、アクション活劇で、一気読みできる面白さがあります。

中野石翁、水野出羽守、日道の三奸物の悪行を明らかにし、正義の鉄槌を下す、じゃが太郎兵衛の痛快無比な活躍が楽しめ、じゃが太郎兵衛を取り巻く女たちが彩りを添え、痛快なエンタメ時代小説です。

現代小説に比べて、時代小説は発行から時間が経っても経年劣化のスピードが遅く、違和感なく楽しめることが多いです。にもかかわらず、刊行から月日が経過、著者の死去などにより、多くの時代小説が書店の棚から消えていっています。

本書も執筆から60年以上が経過しながらも、全く古びていません。

時代小説ファンとして、本当におもしろい作品を復刊しようとする春陽堂書店の取り組みを応援していきたいと思います。ミステリ・SF研究家でフリー編集者の日下三蔵さんが、編集協力として企画にかかわっているのも心強いです。

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素浪人無惨帖

島田一男
春陽堂書店・春陽文庫
2023年6月25日新版改訂版第1刷発行

装画:福田隆義
装丁:高林昭太

●目次
必殺有情剣
風雪非情剣
流星無明剣
明鏡止水剣
落花流水剣
恩讐無法剣
斬人斬魔剣
疾風乱星剣
一殺多生剣
水煙火炎剣
天地無双剣
死生流転剣

本文346ページ

初出:じゃが太郎兵衛無惨帖「小説サロン」(大日本雄弁会講談社、昭和33年1月号~12月号)

■Amazon.co.jp
『素浪人無惨帖』(島田一男・春陽文庫)

島田一男|時代小説ガイド
島田一男|しまだかずお|作家 1907年 - 1996年。京都府京都市出身。明治大学中退。 1946年、短編「殺人演出」が雑誌「宝石」の第1回短編懸賞に入選し、翌年掲載。 1951年、短編「社会部記者」(別題「午前零時の出獄」)、「風船魔」...