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演奏会で殺人事件。かわいらしいが毒舌な名探偵が犯人を追う

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『鎌倉署・小笠原亜澄の事件簿 由比ヶ浜協奏曲』|鳴神響一|文春文庫

鎌倉署・小笠原亜澄の事件簿 由比ヶ浜協奏曲鳴神響一(なるかみきょういち)さんの文庫書き下ろし現代ミステリー、『鎌倉署・小笠原亜澄の事件簿 由比ヶ浜協奏曲』(文春文庫)を紹介します。

あっという間に、2023年のゴールデンウィークも終わってしまいました。
今年は遠出をせずに読書三昧で、いつか読む、必ず読むと入手したまま、積読となっている本の山をすっきりさせたいと目論んで休みに入りましたが、7冊読了したところでタイムアップ。すっきりには程遠い状態です。それでもリフレッシュできました。

本書は、文豪の不自然な死の謎を解く『稲村ヶ崎の落日』で冴えた推理を披露した鎌倉署刑事課の小笠原亜澄を描いた警察小説「鎌倉署・小笠原亜澄の事件簿」の第2弾です。

鎌倉で開催された新日本管弦楽団の演奏会で、コンサートマスターの三浦倫人が殺される事件が起こった。舞台上での凶行に、現場が騒然となる中、鎌倉署の刑事・小笠原亜澄と神奈川県警の吉川元哉は事件を担当することに。指揮棒を振るっていた世界的指揮者、里見義尚に事情を聞いた亜澄は、彼に対してある違和感を覚えるが……。

(『鎌倉署・小笠原亜澄の事件簿 由比ヶ浜協奏曲』カバー裏の紹介文より)

七月下旬の土曜、かまくら夕凪コンサートと題された新日本管弦楽団の夏季定期演奏会が鎌倉海濱芸術ホールで開催。
鎌倉警察署長でクラシック音楽ファンの高梨秀夫もプライベートで駆けつけ、会場の客席最前列に座っていました。

世界的指揮者の里見義尚の指揮で、豊かな弦楽器の響きがホールいっぱいに広がり、ドヴォルザークの交響曲第九番『新世界より』の第一楽章が始まりました。
演奏が始まってすぐに、、高梨はこころの底から感銘を受け、第二楽章では、胸にセンチメンタルな感情が呼び起こされました。

演奏は第四楽章に入り、四十数分のこの曲で、ただ一度だけシンバルが鳴る場面。
シンバル奏者は素晴らしい一打を打ちました。

そのとき、舞台の床に硬いものがぶつかる音が響き、ほぼ同時に指揮台近くで悲鳴が聞こえました。立て続けに人が倒れる音と楽器が床に当たって不規則に弦の鳴る音が。
そして演奏が突然途絶えました。
コンサートマスターを務める、ヴァイオリニストの三浦倫人が上から落ちてきた鉄球で後頭部を強く打ったのでした。

高梨は、警察手帳を掲示しながら、いち早く被害者の救助に向かい、被害者の状況を見て、救急車の手配をし、警察に事件の報告をした後、現場の保全を要請。
鎌倉署に戻った高梨は、数時間後、被害者の三浦が鎌倉署の霊安室に運ばれたという報告を受け、その後の実況見分で会場の天井から吊るされた照明器具に超小型ロボットアームが仕込まれていたことが判明し、コンサートマスターの死は何者かによる恋の殺人であることがはっきりしました。

翌日、鎌倉署に特別捜査本部が設置され、高梨は副本部長として参加することに。県警捜査一課の吉川元哉巡査長も出席していました。

「周波数感知式落下装置との疑いを捨てきれなかったので、今朝、シンバル奏者の由良貞人さんに任意同行を求めて事情聴取を行った」
 二階堂管理官は渋い顔つきで言葉を切った。
「映画の見過ぎじゃないの」
 後方から若い女性のつぶやきが聞こえた。
 振り返ると、小笠原亜澄が皮肉っぽい笑みを浮かべていた。

(『鎌倉署・小笠原亜澄の事件簿 由比ヶ浜協奏曲』P.24より)

亜澄は鎌倉署刑事課強行犯係の巡査部長で、元哉の苦手な相手です。

シンバルの音に反応して起爆装置が作動する爆弾が登場する日本映画があったことを踏まえています。(「踊る大捜査線」のスピンオフ映画「交渉人 真下正義」か)
今回も元哉は亜澄とバディを組み、鑑取り班に回されます。

事件現場となった鎌倉海濱芸術ホールで、ホール管理課長の遠藤やステマネ(ステージマネージャー)の相木、関係者の話を聞き込みました。
シンバル奏者の由良や新日本管弦楽団事務局長の石川らの話を聞いた後、亜澄と元哉は、鎌倉の高級住宅地扇ガ谷地区にある里見義尚の屋敷を訪れます。

義尚と娘で新日本管弦楽団で第二ヴァイオリンを担当し父の秘書役も務める彩音に対して、形通りの質問をしていきますが、大きな手掛かりもつかめずに鎌倉駅に戻る二人。

「なんかさ、どこか違和感があるんだよね。里見さんって」
「どういうことだよ?」
 元哉にはすぐに意味がわからなかった・
「すごく質問しにくかったんだよ。こんなの初めてだよ。聞き込みや尋問はずいぶんやってきたけど、何だか自信なくしちゃった」
 亜澄は眉根を寄せた。
 
(『鎌倉署・小笠原亜澄の事件簿 由比ヶ浜協奏曲』P.151より)

予想もできない方法で、違和感の正体を突き止める亜澄。
ワトソン役の元哉も冴えていて二人のコンビが絶妙で、バディものの醍醐味が味わえます。

フーダニット(Who done it?)。
誰からも好かれて、悪い噂を聞かない被害者のコンサートマスターを誰が卑劣な方法で殺したのでしょうか?

180センチくらいの長身でイケメンのピアニスト椎名が登場します。
イケメン好きで、椎名への尋問ではぼーっとしてしまう亜澄が微笑ましいです。
かわいいだけでなく、毒舌も吐き、点と点をつないでいく大胆な推理で核心をつき、犯人をあぶり出していくところが魅力です。

小説で文字で音楽シーンを描くことは難しいと思いますが、本書では管弦楽団の奏でるいろいろな音が流れてきて、頭の中で再生されていくような感じがし、読書の楽しみを増幅してくれます。

著者の作品には、『令嬢弁護士桜子 チェリー・カプリース』というヴァイオリニストが登場する現代ミステリーがあります。
読んでいる途中から、ずっとパガニーニのカプリース第24番が流れていました。

鎌倉署・小笠原亜澄の事件簿 由比ヶ浜協奏曲

鳴神響一
文藝春秋 文春文庫
2023年5月10日第1刷

イラスト:けーしん
デザイン:野中深雪

●目次
プロローグ
第一章 かまくら夕凪コンサート
第二章 音楽家たち
第三章 ポリフォニー
エピローグ

本文252ページ

文庫書き下ろし

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『鎌倉署・小笠原亜澄の事件簿 稲村ヶ崎の落日』(鳴神響一・文春文庫)(第1作)
『鎌倉署・小笠原亜澄の事件簿 由比ヶ浜協奏曲』(鳴神響一・文春文庫)(第2作)
『令嬢弁護士桜子 チェリー・カプリース』(鳴神響一・幻冬舎文庫)

鳴神響一|作品ガイド
鳴神響一|なるかみきょういち|時代小説・作家 1962年、東京都生まれ。中央大学法学部卒。 2014年、『私が愛したサムライの娘』で第6回角川春樹小説賞を受賞してデビュー。 2015年、同作品で第3回野村胡堂文学賞を受賞。 ■時代小説SHO...