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小石川養生所の病巣を断て!啓文堂書店文庫大賞受賞作第2弾

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『看取り医 独庵 漆黒坂』|根津潤太郎|小学館文庫

看取り医 独庵 漆黒坂根津潤太郎(ねづじゅんたろう)さんの文庫書き下ろし時代小説、『看取り医 独庵 漆黒坂』を紹介します。

著者は、米山公啓の名義で、医学実用書やエッセイ、医学ミステリーなど多数の著作物がある、神経内科を専門とするお医者さんです。

本書は、2021年度啓文堂書店時代小説文庫大賞受賞作『看取り医 独庵』の第2作となります。

啓文堂書店時代小説文庫大賞は、京王線・京王井の頭線沿線地域で展開する啓文堂書店が主催し、各出版社と啓文堂書店のジャンル担当の推薦により選定された候補作を、啓文堂書店全店で「候補作フェア」として1ヶ月間販売した中で、最も売上の多い作品が大賞受賞作となります。

過去の時代小説文庫大賞は、以下のとおりです。

2017年度 今村翔吾さん 『火喰鳥 羽州ぼろ鳶組』(祥伝社文庫)
2018年度 簑輪諒さん 『最低の軍師』(祥伝社文庫)
2019年度 佐藤恵秋さん 『雑賀の女鉄砲撃ち』(徳間時代小説文庫)
2020年度 情報がなくて不明。スミマセン。
2021年度 根津潤太郎さん 『看取り医 独庵』(小学館文庫)

浅草諏訪町の診療所に岡崎良庵という小石川養生所の医師が現われた。患者を診てもらいたいという。代診の市蔵と養生所に出向いた独庵だが売れっ子の戯作者だという患者の診立てがつかない。しかし、独庵の気掛かりはそれだけではなかった。ごみ溜めのような養生所の有り様、看病中間の荒んだ振る舞い、独庵の腕を試すような良庵の言動……。養生所にはなにかある! 独庵は探索役の絵師・久米吉に病と称して養生所に入れ。と命ずる。江戸随一の名医にして馬庭念流の遣い手が諸悪の根源を断つ! 2021年啓文堂書店時代小説文庫大賞第1位受賞作の第2弾。

(本書カバー裏の内容紹介より)

本書の主人公、独庵は、長崎で蘭方を学び、一昔前まで仙台藩の奥医者をつとめていましたが、訳あって今は浅草諏訪町で開業しています。江戸でも名医として知られるようになっていました。

患者の巳之助は、四十五歳の売れっ子義作者で、昼飯を摂った後、急に右手と右足が動かなくなり、その症状が一刻もすると消えてしまうそう。

独庵は、医者・岡崎良庵の依頼で、小石川御薬園の中にある、小石川養生所を、代診の市蔵とともに訪れました。小石川御薬園に続く切り通しの道は病人坂や漆黒坂と呼ばれていました。脈を診たり、腹を触り、脚にも手をやって膝を立てさせたりして様子を見ました。

不審な点がありながら、独庵は「中風以外はどうにも診断がつかないな。診断にはもう少し時をいただきたい」と告げて、養生所を後にしました。

 独庵が廊下を歩いていくと、診察を見にきていた看病中間たちも後ろからついてきた。その中から、
「まったく、独庵もたいしたこたあねえな。江戸の名医がお笑いぐさだぜ」
 これみよがしに言い放つ声がした。
「あれが名医なら、おれは将軍様の御典医だ」
 別の男の声もした看病中間の中で押し殺した笑いが起きた。
 
(『看取り医 独庵 漆黒坂』P.22より)

独庵は浅草諏訪町の診療所に戻ると、絵師の久米吉を呼び、養生所に病と称して入り、内部を調べてほしいと依頼しました。
久米吉は絵が達者なだけでなく、素早い身のこなしで、独庵の手足となってあれこれ情報を集めてくる役目を担っていました。

第一話の「養生所(冬)」では、小石川養生所の看病中間(病人たちの世話をする看護師のような役割の者)の腐敗がテーマになっています。

独庵は、本道(漢方)の医学だけでなく、西洋医学も心得ていました。

第二話の「蝟集(春)」では、診療所の女中で受付役から看護師見習いまどつとめるすずが熱を発して実家の蕎麦屋に戻っていました。江戸市中で麻疹の大流行がある中で、父与平は、大恩ある医者・杉崎甚右衛門から買った水薬をすずに飲ませていました……。

「人はなぜ、医学を信じないのだ。我々が必死になって患者を治そうとしても、あんなばかばかしい水薬を信じている。妙なまじないに傾倒して、効きもしないお札に高い金を払い、麻疹からのがれようとしている。麻疹に群がる金の亡者、まるで甘い汁に虫どもが蝟集するようだ。我々の苦労など患者は知りもせず、噂を信じ、まやかしを見抜こうとはしない」

(『看取り医 独庵 漆黒坂』P.101より)

患者に親身に接し、病に真摯に立ち向かう医師独庵は、藁にもすがりたいという気持ちに理解を示す一方で、怪しい偽薬を売る者たちを許せません。

独庵の際立った診療シーンばかりでなく、この世に生かしておけない悪を馬庭念流の剣で断つ立ち回りもあって、痛快な時代小説となっています。

看取り医 独庵 漆黒坂

根津潤太郎
小学館 小学館文庫
2021年10月11日初版第一刷発行

カバーイラスト:ヤマモトマサアキ
カバーデザイン:山田満明

目次
第一話 養生所(冬)
第二話 蝟集(春)
第三話 出島(夏)
第四話 絵師(秋)

本文263ページ

文庫書き下ろし。

■Amazon.co.jp
『看取り医 独庵』(根津潤太郎・小学館文庫)(第1作)
『看取り医 独庵 漆黒坂』(根津潤太郎・小学館文庫)(第2作)

根津潤太郎|時代小説ガイド
根津潤太郎|ねずじゅんたろう|時代小説・作家 1952年、山梨県生まれ。本名・米山公啓。 聖マリアンナ大学医学部卒業。医学博士で専門は神経内科。 日本推理作家協会会員。 エッセイ、医学ミステリー、医学実用書など多数執筆。 2021年、初の時...